第30話(最終話)「積極的な僕の彼女」
「……ふぅ、ごめんね。急に引っ張って。」
「……。」
僕が由里ちゃんの右手を離すと、その手を胸の前で左手で包み込む由里ちゃん。
不安げに視線を彷徨わせる彼女に、言った。
「話したいことが、あるんだ。」
「……。」
彼女は、答えない。
由里ちゃんの不安を拭うためには、小細工をしてはいけない。
彼女が、ずっとそうだったように。
ただ真っ直ぐ、自分の気持ちを……。
「……由里ちゃん、遅くなってごめん。」
「……!?」
僕が由里ちゃんの肩を掴むと、彼女が顔をあげた。
「由里ちゃんを知れば知るほど、可愛くて、いつも一生懸命で……、すごく好きになりました。だから僕と、付き合って下さい!」
「……!!」
なんとか彼女の目を見て、言えた。
由里ちゃんは驚いているのか、大きく目を見開く。
「はぁ……、よかった。言えて。」
「……。」
僕はちゃんと伝えられた事で、少し力が抜けた。
由里ちゃんに微笑みかけると、彼女は顔を赤くして視線を逸らした。
「……返事を、聞かせてくれる?」
「……。」
そう聞くと、由里ちゃんはゆっくりと僕に抱きついて来た。
それを僕は、優しく受け止める。
「……怖かった。」
ポツリと彼女がそう言ったので、僕はポンポンと背中を叩く。
「ごめんね、待たせちゃって。」
由里ちゃんは、泣いていた。
「……離さないから。」
「うん、僕も絶対に離さない。」
ギュッと由里ちゃんが言葉通り、僕を強く抱き締める。
応えるように僕も、彼女を強く抱き締めた。
「……いっぱい、甘える。」
「いいよ、僕も甘えるから。」
由里ちゃんがパッと顔を上げて、僕と唇を重ねた。
「……ん。」
「……。」
暖かくて、柔らかい。
その感触に、心が満たされていくのを感じる。
しばらくそうして、やがてゆっくりと離れる。
「……結婚を前提になら、いい。」
「ふっ……。」
あの日と同じことを言う由里ちゃんに、つい笑ってしまった。
彼女も笑って、僕の返事を待っている。
「…うん、いいよ。僕と結婚を前提に、付き合って下さい。」
「……うん!」
満足げに微笑んだ由里ちゃんはとても綺麗で、吸い込まれるように僕はもう一度唇を合わせた。
「本当は、放課後にあの日の由里ちゃんみたいに教室に迎えに行って、ここで告白するつもりだったんだ。」
「……。」
これからテストの結果を見に行く気にはなれなくて、2人で並んで座って話をした。
その中で、僕は今日の計画を由里ちゃんに話した。
「……なんで、今にしたの?」
「えっと…、由里ちゃんが不安そうにしてて、それを放っとけなかったからかな。」
僕が照れ臭そうにそう言うと、由里ちゃんが僕の肩に頭を乗せて来る。
「……ごめんね。」
「いいよ、僕が悪いって。」
お互い謝って、それが可笑しくて小さく笑う。
「……ここなら、あの日の由里ちゃんみたいに勇気が出せると思ったんだ。」
由里ちゃんが僕の顔を覗き込む。
「……力になれた?」
「……うん。おかげでこんなに可愛い彼女が出来たよ。」
「……子供は、何人欲しい?」
僕は笑って、それに答えた。
「今は、2人でいたいかな。…その辺のことは、もっとお互いを知ってから、ゆっくり決めていこう?」
「……うん。」
再び僕の肩に頭を預けて来る、由里ちゃん。
予鈴のチャイムが鳴るまで、僕等はずっとそうしていた。
「武庫ー!どこに行ってたんだよー!!」
「うわっ!?住吉くん、やめてって!」
放課後になると、またすぐ住吉くんが僕の所にやって来た。
前回で懲りたのか、今日は背中を押されるくらいで済んだけど。
しかし、また律人達もやって来る。
「あーっ!また深月くんをいじめてる!」
「懲りないやつだな!」
「り、律人!今日は何もしてねぇよ!」
またじゃれ出した面々を放っておいて、今回は一緒に来ていた御影くんが寄って来た。
「……全員、赤点なしだったぜ。」
「うん、洲崎さんから聞いたよ。おめでとう。」
「そうかよ…。」
御影くんが何かを言い淀むように、頭を掻いた。
「あー…、ありがとな。武庫。」
「ん?それはみんなも、御影くんも頑張ったからだって。」
「勉強だけじゃねぇよ。…色々だ。」
「…そっか。」
僕が御影くんのお礼を受け取ると、陽葵さんもやって来た。
「駿、ちゃんとお礼言えた?」
「うるせぇな、ちゃんと言った。」
どうやら御影くんからのお礼は、陽葵さんからの差し金みたいだ。
……御影くんが素直にお礼を言ってきたから、少し意外だったんだ。
「そう…。深月くん、私からもありがとう。」
「ううん。よかったね、陽葵さん。」
「……えぇ。」
僕の言葉に、陽葵さんが微笑んだ。
僕等が和やかに話していると……。
「……深月、浮気。」
「違うって、由里ちゃん……。」
いつの間にやら来ていた由里ちゃんが、僕をジト目で睨む。
「……ちゃんと、僕が好きなのは由里ちゃんだけだよ。」
「「えっ!?」」
近くで聞いていた陽葵さんと御影くんが、目を剥いた。
「……ん。」
それを全く気にしない様子で、由里ちゃんが僕に向かって両手を広げる。
(……しょうがないなぁ。)
僕は甘えん坊な彼女を、優しく抱き締めた。
「えぇっ!?」
「うわぁー!!」
「何っ!?何っ!?」
一瞬遅れて、教室中から悲鳴があがる。
みんな以外にも、教室に残っていた人全員が僕等を見ていた。
僕は流石に恥ずかしくなってきたので、由里ちゃんと離れて手を取った。
「…行こっか、由里。」
「!?…うん!」
僕等が手を繋いで、教室を出て行くのを呆然と見送るみんな。
僕は教室の出口で振り返って、律人に言った。
「もう部活の時間でしょ?遅れるよ。」
「……あ、あぁ。」
生返事を返した律人に、僕は笑った。
こういう律人は珍しいが、すぐに『やられた』という風に律人も笑う。
「良かったな、深月。お幸せに。」
からかうように言った律人に、最後にやり返す。
「あっ。あと賭けは犯罪だし校則違反だから、もし受け取ったら先生に報告するから。」
「なっ…!?そりゃないぜ!」
律人の悲鳴に満足した僕は、今度こそ教室を出た。
——律人と話したせいで、不機嫌そうに僕の腕に絡み付いた彼女のご機嫌をどう取ろうか、頭を悩ませながら……。
積極的な無口少女が、僕を困らせてくる。 ちょくなり @tyoku_nari08
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます