7.
やっと声が解き放たれると、リーダーは必死に謝罪の言葉を繰り返した。
「ごめんなさい!!助けて……助けて……明智さん、私が悪かったわ!お願い、殺さないで、お願い!!」
「謝らないで。あなたの罪は向こうで償えばいいんだから。」
少し離れた位置でデジカメを構える季依は穏やかな笑顔で、リーダーは小さくひっくり返った声を漏らした。
そしてリーダーの横では華弥子がほほ笑んだ。
「大丈夫、私があなたを解放してあげる。」
ジッポの蓋が開き、火石の擦れる軽快な音の直後、リーダーと華弥子は大きな火の海に包まれた。
リーダーの悲鳴と肉の焼ける独特の匂いの中、華弥子は嬉しそうに微笑み、カメラ越しの季依は吹き出しそうになる声を押し殺した。
焼け跡には、黒焦げのヒト型の肉塊と、やけど一つない華弥子がいた。
「……あんたの体って焼けないの?」
「もう!ちゃんと焼けてたわ!!この程度の火なら直るほうが早いだけよ!!」
「そう、それは失礼しました。」
季依は、華弥子という超常現象に目を背け、目の前の哀れな1本立ちの肉塊を一瞥した。
「それより!!きれいに撮れた?」
「当たり前。あとは仕上げにこの動画と昨日のソフトをくっつけてこの女のグループチャットに乗せれば、完成。」
「ふぅん、案外あっけない使い方ね。」
「いいのよ。これくらいのほうが、あの面々にも恐怖を植え付けられる。それに面々は慌てて裏を撮ろうとするだろうから、この遺体だってすぐに見つかる。あんたが言ってた”見えやすいように残す”こともできるし。」
季依の本来の作戦に、華弥子は目を輝かせた。
「やっぱり素敵!!頭がいいんだわ!!」
「もっと褒めて。今日はスーパーでお肉買ってステーキにしよ。」
「フフッ、間違えてフランベして焦がしちゃだめよ?」
「大丈夫。私料理はうまいから。」
季依と華弥子が足早に屋上を後にした1時間後、現場には警察とリーダーの母親が惨劇を目の当たりにしていた。
次の日、匂いを嗅ぎつけたかのように報道が流れ【不審死】が取り上げられた。
2夜連続の出来事に、事件性があるのかが討論となり、報道もネットも過激化していた。
そんなニュースをテレビで流しながら、季依と華弥子は朝食を嗜んでいた。
「ねぇ、泊ったのはいいけどきちんと家に報告しときなさいよ。」
「フフッ、大丈夫よ。うちのおばあさんは理解があるの。」
「ならいいけど。」
季依が啜っている中華スープは、昨日のステーキ肉の脂身をだしにした季依特製即席スープだ。
「それよりすごいわね!!一昨日と昨日の儀式がきちんと次の日に表面に出てくるなんて!」
「当たり前でしょ、私が匿名でリークしてるんだから。」
「あら、そうなの?あなたはそういうの嫌いなのかと思ってたわ。」
華弥子はかま玉を口に含んで嬉しそうに微笑んでいる。
「別に好きではないけど、20社くらいにランダムに原稿のラフ送って、報酬を得てるのよ。これも仕事の一環。」
「ふぅん、探偵って大変なのね!」
「そうよ。体力勝負なのよ。」
季依はそう言ってスープを飲み干すと、本棚からタブレット端末を取り出して、すいすいと操作した。
「探偵って言ってもほどんどが何でも屋だから大したことやらないけど、たまにこうやって……良い依頼が来ることもあるの。」
華弥子が覗き込むと、季依は端末内の書類『依頼内容』と指さした。
「今日の午後が予約入ってるから、あなたにも制服貸してあげる。」
季依は奥のクローゼットからビニールに包まれた制服を取り出した。
制服のタグには紙製のクリーニング済みの札がかかっている。
「私のおさがりで悪いけど体格似てるから多分サイズは大丈夫よ。」
「まぁ!!私も着ていいの?」
「そりゃ、ここの従業員だからね。あ、言っておくけどあなたの体よりは脆いから、力を使うときはきちんと脱いでおいてよ。」
「分かったわ!!」
華弥子は制服にそでを通し嬉しそうに踊りだした。
季依は呆れつつも、自らも制服に身を包んだ。
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