畏怖と軽率の出会い
1.
これはとある2人の女性のお話。
話の始まりは彼女たちの稀有な出会いに遡る。
ここはとある都会。街では原因不明の死体が何件も発見され、ニュースで取り上げられるほどの大きな反響を呼んでいた。死体には必ず”いわく”が付いているとされ、報道も過激さが増していた。
その事件について依頼を受けた探偵、明智季依、歳は17を回ったところ。
彼女は仕事に責任を持つ実力のある探偵の一人で、大人と肩を並べるほどの気概も際立つ娘だったが、ここ数週間はタイミングが悪すぎた。
彼女の自信喪失期という理由でお仕事をお断りしていたのだった。
「またのご依頼をお持ちしております。」
お客の一人を事務所から出してソファにもたれかかりため息をつく。
この場面から見れば彼女は、どことなく弱弱しい年相応の高校生に逆戻りだった。
17歳、高校生ということは学校もある。季依にとってはそれがまた癪に障るのだった。
午後から通学をした彼女は教室に入ってすぐの非道な行為を一瞥して自らの席に着く。
それもまたいつも通りの出来事だ。
そしてこの非道な行為とは暴力、恐喝、強姦等の犯罪行為だ。
この言葉だと伝わりずらい内容のため、ひとまとめでオブラートに包んだ言葉「いじめ」ということになる。被害者は足立華弥子。先日転入してきたばかりの女子であった。
季依は華弥子の殴られて変色した顔に目をやった。そして転入当初の人形のような整った顔に圧倒されたことを思い出していた。華弥子は制服を切られ下着が露出していた。
その様を撮るのはクラスの女子の面々のいじめを生きがいとしているグループ。
通常であればあそこまでされれば学校にも来なくなるだろうに、華弥子は無表情を崩さずに淡々と屈辱を受け入れていた。
季依は「やめて」の一言も漏らさない華弥子に、薄気味悪さを感じていた。
すると、華弥子の虚ろな視線が季依とぶつかった。季依は顔をそらした。
一方、華弥子は季依の時々向けてくる訝し気な視線にかすかな興味を持っていた。
しかし視線を合わせると逸らされてしまうことで少し拍子抜けていた。
放課後、華弥子は保健室で一通りの傷の手当てを済ませてもらった後、家路をゆっくりと歩いていた。
ぼんやりと通学路にさす夕日がオレンジ色に染め上げていて、一日が過ぎていくことに落胆した。
「あぁ、今日もまた……。」
ぽつりと独り言を漏らした時、ふと華弥子の視線が一人の男の子に向けられた。
男の子のランドセルには折り畳み傘がひょっこり顔を出していた。
その瞬間、視界の右側から猛スピートで走り抜けていく自転車に男の子の傘が引っ掛かり、男の子は勢いよく引き倒された。突然の出来事に自転車は一度その場に止まったものの、何事もなかったように走り去っていった。華弥子は自転車の運転手の顔に目をやり、取り急ぎ倒れこんだままの男の子に駆け寄った。
「大丈夫?手足の感覚がおかしなところはない?」
「痛いよぉ……うわぁ~ん!!!!」
男の子は華弥子に体を起こされ、堰を切ったようにぼろぼろと泣き始めた。
華弥子は男の子の頭を撫でて、顔を上げた。自転車の走り抜けていった方角を見るとすでに姿はあるわけもなく、風が吹き抜けていた。
「大丈夫よ。必ず傷は治るわ。」
「本当?」
「えぇ、……これで……愚かな理由ができた。」
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