2.

その夜、華弥子はすぐに行動を起こしていた。

男の臭を辿って、後を追い草陰に身を隠した華弥子は男がアルバイト先から出てくるのをじっと待っていた。男が飲食店から出てくると、その前に華弥子が姿を現した。

「なんだお前。」

「命はとても儚く美しい……人間はかつて神が生み出した自身のクローンなんですって。」

「は?」

「それなのにどうして皆……美しさを蔑ろにするの?」


直後、華弥子は自らの首に右手をかけた。

同時に操られるように男の左手が首元に運ばれた。

男はとっさにもう片方の手を持ち上げるために力を入れた。

しかし、手はその場で震えもせずにでダランと動きもしない。

「心配しないで。あなたの命は……私が解放してあげるから。」

「ふざッ……?!」

片手で自ら首を締め上げる華弥子。男は指の一本も愚か、血管すら自由を奪われたようにミシミシと浮き上がり、己の最大の力で自らの首を締めあげていく。

「な……、や……め……。」

男は自身の体に殺されようとしているようにも自らこの世に終わりを告げようとしているようにも見えた。

「くッ……か……ハ……」

消えゆく意識の中で、男はようやく人に向けていた強欲に気が付いた。

男の眼球がグルンと後ろに回った瞬間、首の骨がボキンと折れる音が響いた。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


そんな頃、季依は放課後にネットカフェで一つ仕事を済ませた帰り道。

高架下を通り道路に出る時、不審なうめき声が聞こえた。

季依は身を潜め、恐る恐る声のする方を覗き込んだ。


うめき声の正体は自らの首を絞める男と同じように首を絞めて微笑む女の姿だった。

季依は無言でデジカメを録画セットした。

……今日ってなんてタイミングがいいんだろう……。

季依は心の中でそう歓喜の声を漏らした。

映像越しに見る情景では、男性と女性が同じ行動をとり、同時にばたりと倒れた。

録画を解除し、季依の表情に笑みがこぼれる。

音を立てないように背を向けた時、プチッという微かな音と髪を一本抜きとられる痛みがした。

「え。」

季依が振り返るとそこには、にっこりと微笑んだ華弥子が立っていた。

「あなたって、興味深いシュミを持ってるのね。」

先ほどまであの男の前に立っていたはずなのに……なぜ……。

「な、なんのこと…?」

「」

華弥子は表情を崩さないまま、無言で抜き取った髪の毛を自分の首に巻き付けて締め上げた。

季依の首にも確実に髪の毛の締まっていく感覚がする。

「ッ?!」

希依が歯を食い縛ろうとした時、髪の毛がプチンと切れる。

その瞬間解き放たれた感覚とともに、季依はその場にしりもちをついた。


「あぁ…切れちゃった。」

虚無感が感じられる表情の華弥子。

季依は自分の置かれた劣勢状態に必死に声を上げた。

「お願い。まだ…死ぬわけにはいかないの。」

「どうして?」

「聞いてくれるの?」

「えぇ、今は儀式の後のすがすがしさに包まれているの。」

「儀式?」

「さっきのね。そのカメラには証拠、何もない思うけど。」

「……え?」

慌ててデジカメを見ると、間違いなく撮影がされていた風景に季依はホッと息を漏らした。

「なんだ……ちゃんと撮れて…ッ。」

「うん。よく撮れてる。」

顔を上げると微笑んだ華弥子がともにデジカメを覗き込んでいた。

「あなた、撮るの上手なのね……。」

「」

恐怖で声が出ない季依。

「ねぇ……私たち、お友達になりましょ?」

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