終幕における幸せのかたち

 山とか谷とかもう陸そのものってくらいに巨大な龍と、その臨終に立ち会う羽目になった小さな妖精の、その対話とその後の顛末のお話。
 いかにもファンタジーらしいファンタジー、というわけではないのですけれど(この言い方だときっと剣とか魔法とか冒険の旅のイメージが強そう)、でも「ファンタジーだからこそ」を目一杯使ったお話です。特に龍ことガイルベロンさんなんかは非常にわかりやすいというか、この体の巨大さに寿命の長さ、なにより生きてきた足跡のスケールの大きさなんかは、まず人間のそれとはまるで比較になりません。この大きさそのものがすでに魅力的というか、なんだか足元がソワソワしちゃうような壮大さをしっかり感じさせてくれるところが素敵です。
 とにかく巨大で、小さな妖精や人間からはとても想像のつかない次元から物事を見つめてきた存在。本来なら対話など叶わないはずのその龍に、でも念話の力を持つ妖精の協力によって、初めて成り立った意思の疎通。それにより明らかになる龍の内心、いやあるいは望みというかむしろ性格そのものというか、その意外さがとても好きです。ややネタバレ気味の感想になってしまうかもしれませんが、ただこちらの予想や想定を裏切ってくるのではなく、その結果にとても共感させられてしまうところ。また対話相手としてそれを受ける妖精の感覚というか、その内心の変遷のコミカルさも面白かったです。期待から困惑、あるいは呆れのような感情になり、なんなら半ばツッコミ役みたいな役回りまで。こうしてみると龍も妖精も非常にキャラクターが立っているというか、性格そのものは自然な味付けなのに(極端なのはその大きさ小ささくらい)、でも造形そのものが実に生き生きとしている。この辺りが読み口に自然な味わいを与えているのだと思います。
 そして、龍の最期とそれを踏まえての結末。余韻が美しいのもあるのですが、「ハッピー・エンド」という章題とあわせて考えると、より深みを感じさせてくれる幕引きでした。

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