最終帝国

オスマン第二帝国は2025年戦乱に満ちた旧社会の廃墟から力強く立ち上がった。


2025年四月オスマン第二帝国は190もの勢力に分かれていたシリア内戦を終結させた。

2026年四月北ユダヤ国、同年5月アラビア半島を征服。28年12月マンネルヘイム共和国を征服しヨーロッパの半分を手中に収めた後、頑強に抵抗してきた国家も積極的に占領を受け入れるようになり2029年3月22日オスマン第二帝国は最後の抵抗国家ドイツ国民社会共和国を征服した。まるで欧州が安静を求めたかのようにすんなりと統一は実現したのだ。


すべての人類にとってオスマン第二帝国が完璧な解答だったとは思わない。何故なら、宗教毎、大陸毎、国家毎、地域毎、思想毎、個人ごとに幾千万もの正義が存在しているからだ。


三日月は、決して満月ではない。だが新月でもない。それまで夜は新月であった。オスマンの三日月は今日もどうしようもない人類に与えられた一抹の希望として輝き続けている。


人々はオスマン第二帝国によって与えられた束の間の平和を再びこう呼んだ。『パクス・オトマニカ』と。


弱体化はしているが、ソビエト社会主義共和国連邦、中華社会民国、アメリカ連盟民国は残り続けている。それでも、ある程度の均衡は確保された。ムスタファ・ケマル・アタテュルクよ貴方が守ろうとした国はここにあるだろうか?


オスマン第二帝国初代皇帝は自らをアッシャッバーイールと名乗りオスマン協定軍元帥は白い肌をしておりカディーロンと呼ばれた。皇帝が常に抱く黒猫は安寧の象徴となり、いづれ国獣となった。


彼らの本当の名前は誰も知らない。


そして、彼らは知ることはないのだ。天高く掲げられた三日月の旗には少しずつ火の粉が積もっていることを。高すぎた理想はやがて大きな軋轢を生み、やがて崩壊し悲惨な末路を迎えることを。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

帝国論理 雷比 @harumakinohito

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ