第36話 京都 3

「おお……でっけぇな、京都の寺ってのは。俺達の住んでいる地域にこんな寺見たことないぜ?」


無駄に角度がキツい坂を登り、着いたと思ったらさらに石階段が続くという苦行を乗り越えた俺達は今―――寺にいた。砂利の道。賽銭箱。手を清める所。凄い人が眠ってそうな墓というThe寺と呼ぶことが出来る場所であった。参拝に来ている人はあまりいなかった。おそらく平日だからだろう。まぁ、静かでいいだろう。


「まぁ……ゲホッ……そもそもだが俺達の住む愛知に……ハァ……有名な寺自体……少ないだろう?そりゃ仕方ないさ……オェッ」


慎士が今にも死にそうな状態で横から話しかけてくる。こいつにはここまでの道のりが相当な地獄と感じられたらしい。手を膝に起き、腰を低くしながら息を吸って吐いての繰り返しをしている。


(慎士……お前体力無さすぎだろ……。今までそれでどうやって勝ってきたんだ……)


慎士とはここまでなんだかんだで危機を乗り越えてきた。俺は影ながらトレーニングは怠らない。簡単な筋トレや、能力を軽く発動させたり。だから筋力が衰えたりしないし、能力が訛ることはそうそうないだろう。これはいつ、どこで相手プレイヤーと戦うことになるか分からないからだ。これ、重要だぜ。


俺はともかく、問題は慎士だろう。こいつはおそらく筋トレ等の疲れる事が苦手なタイプだ。というか今までの行動を見ていれば予想はつく。今日まではなんとかなったかもしれないが、もしトレーニングをしていないとしたらいざ強敵か出てきたときに困るかもしれない。


(俺が今度言っておく必要があるか………)


心の中で軽く決意した。


慎士は寺に着いてからもしばらくは「ゼーハー」としんどそうに呼吸をしていた。それでも汗はあまりかいていないようだ。おそらく今の季節が秋だからだろう。寺までの道には紅葉もみじやイチョウが見えたり、地味に涼しい風が吹いていたりしたのでほぼ秋だと勝手ながらも決めさせてもらった。


今までは季節について触れたことは無かった気がするが、改めてこのゲーム世界の季節構造等を理解しておくのも悪くないかもしれない。地球温暖化まで再現……されているのだろうか?まあ正直、そこまで心配することはないだろうがよ。


「慎士……あなたもしかして運動とか体力使うの無理なタイプ?」


「なッ!?」


俺達と共に石階段を登ってきた優梨が慎士に訪ねる。まさか優梨に聞かれるとは思っていなかった慎士は「ははは……」と苦笑いをしながら優梨と距離をとっていく。……うん、察したぜ。


慎士の弱々とした様子に何かをお考えになっているらしい優梨は凄みのある顔で慎士にビシッと人差し指を指す。そして高めの声で言ったのだ。


「男ならッ!しっかりと鍛えて女に情けない姿を見せることのないようにしなさいッ!」


ようするにお前は男として失格だ、と。優梨はちゃんと『男』のやつが好みのようだ。勝手にそう俺が思っただけだがな。実際はどうだか知らんよ。


「すいませんでしたッ、俺は男だ!しっかりと動けるところを見せてやるからな!それまで待っていやがれや!こんちくしょう!」


慎士は捨て台詞を吐きながら寺の奥へと走っていく。一見、逃げただけのように見えるが慎士は約束は守る男だ。強くなったところを見せてくれるだろう。だがそのがいつ来るのかは分からない。


「行っちゃった……けど慎士なら多分大丈夫だよね」


同じく石階段を乗り越えた友結が微笑みながら俺と優梨に言ってくる。友結も慎士という男を分かっているのだろう。これでも幼なじみだしな。この世界で出会ったばかりの優梨には「少し強く言ってしまった」と感じてしまっているかもしれない。それを友結が言うことで大丈夫だと安心させてくれる。友結はから。


「ええ……彼なら大丈夫ね。うん」


「ま、放っといてもいつか戻ってくるだろけどな。……だけどそれは慎士が泣きそうだし俺達から行ってやるか」


俺が提案すると、2人は頷く。


「そうだね。行かなかったら多分、どうして来なかったんだよ~って言ってくるよ」


友結が慎士の爽やかボイスに近めの声で真似をする。それに俺と優梨は少し笑ってしまった。思い返せば――慎士って割とイケボだったな……。俺の低音ボイスに比べて……。落ち込みながらも、この見た目で爽やかは似合わない。今の声が適正だと言い聞かせる。


(これがベスト……これがベスト……)


「よし、行くか(低音ボイス)」


俺は自分の声に自信を持ちながら慎士が走っていった方へ友結、優梨の2人と共に向かうのだった―――――――――――――――。











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