第35話 京都 2

「俺氏、京都の中心部に着く」


俺達が辿り着いたのは京都の中心部。店や寺などが先程までいた周辺部よりさらに多くあり、とても賑わっている。中には着物を着た女性や、坊さんが歩いているのが見える。まさに予想通りといったところだろう。


近くの看板を見てみると、京都・Fとある。ファンタジーのFのつもりだろうが、名古屋と比べると全くファンタジーらしさがない。これは京都のテーマである『和』を残すためだろう。せっかくの京都の雰囲気を台無しにはできない。


「まぁ、見渡してもちゃんと京都だね」


「だな。……特に今はすることが無いし、しばらくは探索という名の観光を楽しむとしようか。色々食べてみたいものがあるんだ」


慎士はまさに目の前に餌を置かれた犬かのような眼差しで店を見ている。慎士も京都には来たことが無かったんだっけか。


「それがいいと思うわ。だけど残金のことも考えて行動しないとまたバイトすることになるから気をつけてよね」


バイトという単語に、うっ……と頭を抱える慎士。彼からは確かにバイトは楽しいものだったがもう大変なことはやりたくないという気持ちが伝わってくる。同じバイト経験者として俺も少なからずそう思った。超肉体労働はさすがに疲れたな……。最近の出来事を思い出し、それに浸っていると慎士がいつの間にか店へ歩き出していたのだ。それに俺は改めて慎士のメンタルの強さに安心していた。


「おばちゃん、みたらし団子4つ!」


「はいよ400円ね。――坊ちゃんの学校は今日は無いのかい?何人か制服姿の子を見たんだがねぇ」


俺のところからは慎士が店のおばちゃんと何を話しているのか分からなかったが明らかに慎士の表情が変わったのが見えた。いつもの少しおチャラけた表情ではなく、戦略を考えている時のあの表情だ。


「ん、はい。今日は臨時休校なんですよ」


「……そうかい。まぁ、気をつけてちょうだいね。こういうあまり人が出歩かない平日の方が狙われやすいからねぇ」


みたらし団子をパックに詰めながら何かの不安を思い出すかのように話すおばちゃん。その理由を慎士は問う。


「何か危ないことでも?」


「ええ。最近、大阪の方で連続殺人犯が出ていて、まだ捕まってないらしいねぇ。いつこの京都に来るかも分からないし警戒しておくに越したことはないよ。……あ、みたらし団子4つね」


パックに詰められたみたらし団子を受け取る慎士。その時はまだいつもの表情には戻っていなかった。


慎士がみたらし団子を持って戻り、俺達は店近くにあるベンチでそれを食べることにした。その際に先程の会話について問いただすことにする。


「あー、美味いな。なんとなくだが普段食べているやつよりは倍近く美味い」


俺を含め、みんなみたらし団子を食べて至福の時間を過ごしているらしい。美味いのは同感だ。


「おい、慎士。さっきおばちゃんと話している時、すげえ深刻そうな顔してたからな。何を話したか教えてくれや。不安なモンは取り除いといた方がいいだろ?」


団子を食べている途中の慎士に、急にだが話しかけてみる。質問に「……ん」と反応を見せながら俺の方を振り向く。


「ああ、見ていたか」


「もちろん。私達は仲間だからね」


友結が言うと、慎士は軽く笑い、顔を柔らかくする。しばらくして、真面目な顔で話し始める慎士。


「えっとだな、さっきおばちゃんは俺達以外の制服姿を見たと言っていたんだ。しかもこんな平日にだ。それがどういう意味か分かるだろう?」


「……プレイヤーが普通に出歩いているのね……。それも何人も」


「さらにこうも言っていた。どうやらこの付近の地方で連続殺人犯が出たらしい。NPCが暴れているとも考えられるが、最も俺が恐れているのはそれほど狂気に満ちたプレイヤーがいるかもしれないということだ」


「…………………」


「とにかく、俺達が想像していた以上にこの地方でも戦いが勃発していて、やべぇやつらがいるのが分かった。俺達はそいつらに勝ちつつ進まなければならない」


慎士の話を聞き、状況は大体把握することができた。―――――連続殺人犯。こいつには1度どうしても物申してやりたい。そして必ず俺達が倒してやる。そう思うと、決意がみなぎってくる。気づかぬうちに自身の右拳が熱くなっており、強く握りしめていた。


「さてと、警戒はしつつ観光を再開するとしようか。こんな街中で暴れるようなやつじゃないだろうしな」


慎士がみたらし団子を食べ終わったのと同時にベンチから立ち上がった俺達は寺へと続く軽い坂を登り、歩き始めた―――――――。





《少し文を変えました。影響は特にありません》






























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