最終話「俺たちの未来はここからだ」
「やらなきゃいけないことはいっぱいあるね」
ジュースを飲みながらジョットはそっと息を吐き出す。
「ああ、そんなものさ。貴族だって覚えなきゃいけないこと山ほどあるだろう」
と俺は切り返した。
「違いない」
ジョットは言って俺とふたり笑う。
腹の探り合いは意外なほどすくなく、反省会や趣味の話が増えてきてる。
「正直、きみがあの帝国の皇子とは思えないよ」
ぽろりと彼は本音らしきものをこぼす。
「俺もそう思う」
深刻な空気になるのを避けたく、笑って応じる。
あの国のやつらの中じゃあ俺は間違いなく異端児だろう。
そもそもこの世界の世界にとっての異物だ。
「帝国も変わっていくのかと期待したいんだけど」
ジョットは探りを入れてくる。
「俺は国に帰る気はまったくない。察してくれ」
と言って肩をすくめた。
帰ったらどんな状況に追いやられるか、全然想像がつかない。
無能なら無能なりに、有能なら有能なりに面倒な用件を押しつけられるのはほぼ確実なんだが。
「お互い苦労するね」
とジョットは苦笑いする。
「お互い」か……支配階級に生まれた人間の宿命ってやつか。
「じゃあ今後ともよろしく」
最後に握手をかわして俺たちは別れた。
「状況次第では本当に友だちになれるかもしれないな」
と帰路についたところでこぼす。
ジーナは判断しかねたようで、無言のままあとをついてくる。
たしかにお互いの立場が俺とジョットのことを難しくしているんだが、俺はティアの味方をして帝国と縁を切るつもりだしな。
前世はぼっちだったので友だちにはちょっとあこがれる。
いまは無理でもいつか言えたらいいな。
「おや、奇遇ですね」
不意にかけられた涼しげな声に足を止めると、ティアとサラとカレンがいた。
「何かの集まりの帰りかな?」
「う、うん。ラスターくんたちも?」
ティアたちのファッションはちょっとだけいい外出着だった。
「ああジョットたちとね」
サラが調べればわかることなんだし、隠す理由はない。
ティアはうつむいてサラが何か耳元でささやく。
ちらちらこっちを見てるので、言いたいけど勇気を出せないってところだろう。
相手がティアじゃなかったら空気を読まずに立ち去ってもいいんだが。
「あ、あの。ラスターくん、今度はサラとわたしといっしょに家でお茶しない?」
「いいよ」
どうせそんなことだろうと予想していたので即答する。
「いいの?」
拍子抜けした顔でティアがこっちを見つめてきた。
「ああ」
ティアからの誘いを断るなんてとんでもない。
この世界の命運は彼女にかかっているのだから。
「じゃ、じゃあ、準備ができたらまた連絡するね」
「了解」
ティアは相変わらずみたいだから、すこしずつ歩いていくことになりそうだ。
俺たちの未来はまだまだこれからってことだろう。
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お付き合いいただきありがとうございました。
よければ新作もご覧ください
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