後書き

― 西暦2021年3月31日


― 離れなどない合間家



 「カルティエ オ・ラシーヌへの道 百年後の王国物語2」を最後まで読んでいただき、ありがとうございました。特に応援、フォロー、レビュー、コメント下さった方々には感謝の気持ちでいっぱいです。ご意見ご感想、真摯に受け止めております。皆さまの評価、反応がとても励みになります。


 この物語はもちろん、前作「君に聞かせる子守唄」を執筆中に思い付きました。語り担当のフランソワ君がややヘタレで奥さまクロエはある程度ツンツンであることは最初の設定で出来ていました。クロエは義姉であるガブリエルの味方ですから、まあその、フランソワ君よりもずっとザカリーに対して割と厳しい態度で臨むのですよね。


 そして書き進めて行くうちにどんどんフランソワ君のヘタレ度にクロエのツン度が増していき、二人の出番、特にクロエの活躍がより著しくなってくるではありませんか。作者の私も、この脇役二人を掘り下げていくのも楽しいかなと考え、今作「ラシーヌ」の構想が段々と出来上がっていったわけです。


 前作の主人公であるガブリエルとザカリーという二人の魔術師の活躍も絡め、前作の他の登場人物に、今作で初登場するキャラも加えてこの物語が完成しました。書き始めてみると本編クロエ視点だけで既に「子守唄」の話数を越えてしまいました。


 その上、主人公のクロエに加え、男主人公フランソワ以外にも他の登場人物の皆さんにもどうしても喋らせたく、フランソワ編との間に幕間という場をとることになりました。「子守唄」のスピンオフなのにこちらの方が長編になってしまうという結果でした。


 題名を決めるのにもしばらく悩みました。クロエとフランソワの間にある、見えない壁の象徴が欲しいなと考えた末、王都を分断するように流れるラシーヌ川を思い付きました。そしてその北側であるオ・ラシーヌと反対側のバ・ラシーヌという地区で格差を付けました。


 実はこのラシーヌ川、ずっと前の作品「王子と私のせめぎ合い」にも出てきているのです。こちらの作品をお読みになった方は王太子がミラを舟遊びに誘ったことをお覚えでしょうか。残念ながら王太子殿下、ミラに警戒されるのを恐れて二人きりのデートにせず、お邪魔虫のジェレミーとフロレンスも誘うしかなかったというあのイベントです。四人と船頭兼従者という総勢五人でのラシーヌ川へのお出かけの巻でした。その時彼らが船で出掛けたのは王都郊外のもう少し上流でした。王都は川と港の街なのですね。


 さてフランソワ君は前話「子守唄」の語り役で、その時に自分が主人公になる話ではカッコいいヒーローぶりを発揮したいものだ、なんて言っていましたね。それは大いに疑問が残るところです。「子守唄」の方を先にお読みになられた読者の方々は彼の本性が分かっていらっしゃいましたから、最初からコイツ実は……みたいな先入観を持って読み始められたことと思います。


 それでも、この「ラシーヌ」から読み始めた読者の方々の目にはフランソワ君はキラキラ王子そのまんまに映っていたかもしれません。それも最初だけですけれどもね。そして、話の構成や男主人公フランソワの本質の暴かれ方などは「溺愛警報発令中!」と似通っているなと私自身思っていました。そちらの主人公カップル、カトリーヌとティエリーの二人も文官で職場恋愛ですし、フランソワ君は性格的にもティエリー・ガニョン氏と通じるものがありますね。


 さて「溺愛警報発令中!」ですが、カトリーヌにも頼りない先輩ニコラが居て、何かと新人のカトリーヌが面倒を見ていました。この作品でのクロエの先輩であるニコラ君もキャラ像を思いついた時に迷わずニコラと名付けてしまいました。こちらのニコラ君は何も悪いことをしていないというのに、フランソワ君に小動物と呼ばれたり、クッキーを一人占めされたりしていた気の毒な人でした。実は彼、「溺愛」のニコラの子孫かもしれません。


 この話で私がどうしても活躍させたかったのは少年ザカリー君です。彼はこの物語に登場した時は八歳で、まだまだ可愛い盛りでした。本編「子守唄」ではこの年頃のザカリー君はあまり登場していませんでしたから、私は書きながらキュンキュンしておりました。「子守唄」のスピンオフですから、そちらの主人公である大魔術師のガブリエルとザカリーには是非とも魔法を使って欲しかったということもあります。


 この話の主人公二人は文官ですから、移動手段も連絡の取り方も原始的な方法に頼るしかありません。この点では苦労しました。この二人は瞬間移動も空中飛行も出来ませんし、連絡手段も文や使いをやらないといけないのです。


 ですから御者のマルタンさんに息子のリシャールさん、辻馬車の御者の皆さんの活躍の場も多かったのですね。


 書き始めた当初は単純だと思っていた時系列も結構入り組んでいて整理が大変でした。二人の仲がどこまで進展した時点でクロエがエレインに色々と相談に行くのか、フランソワ君がドレスを作らせるのはいつなのか、などがです。そう言えばクロエが女子力アップに努める傍ら、フランソワ君の方も男子力?アップに励んでいました。実は似たものカップルで、要するにお互いベタ惚れなのですが、中々試練に障害にと二人ともハッピーエンドまでは回り道をしましたね。


 前作「子守唄」を書いていた時にはクロエとフランソワがここまですったもんだを繰り返すとは私自身、思ってもいませんでした。それでも前作を既にお読みの方々はハッピーエンドになるとお分かりだったので安心して読んでいられたことと思います。


 実は次作もこのシリーズで引っ張ります。十五作目となる次作は誰が主人公でしょうか、お楽しみに。



           合間 妹子

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

カルティエ オ・ラシーヌへの道 百年後の王国物語2 合間 妹子 @oyoyo45

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ