最終話 嫌われ勇者から愛され勇者へ
学園の卒業式は滞りなく終了した。
これといったトラブルもなく、粛々と進んでいき、最後は在学生や両親に見送られてホールをあとにする。
本来であればそこで解散となるのだが、俺たち生徒会の面々は一度生徒会室に集まることとなった――新しい生徒会長の任命式があるのだ。
「あとは頼んだぞ、マデリーン」
「お任せください!」
俺の後任として生徒会長になるのはマデリーン・ハルマン。
学園祭の時は家のことでいろいろと大変だったが、その時の苦労を乗り越えてひたむきに努力を続ける彼女の姿を見た周囲の評価は爆上がり。
すでに貴族としてのハルマン家は力を失っているが、彼女がこのまま成長していけば再興もあり得るかもしれない。
それからしばらくはみんな一緒に生徒会室で過ごした。
これからはそれぞれの道を歩くことになるので、こんな風に集まって話ができる機会も減るだろう。
アンドレイとクライネはそれぞれ実家を継ぐために貴族としての仕事を始める。
とはいえ、その主な内容は領地運営に関するもの。
その点は俺と変わらないな。
一方、ラウルとジャーヴィスのふたりは騎士団へと入団した。
どちらも実力は申し分ないし、学園時代の武勇伝もある。
いずれは騎士団長&副団長くらいにはなっているかもしれないな。
思い出話に花を咲かせること数時間。
気がつけば下校の時間となっていた。
「これでいよいよ本当に終わりなのか……」
名残惜しそうに呟くアンドレイ。
でも、その気持ちはよく分かる。
これからもずっと学生でいられるような気でいたからな……けど、こうして新しい日を迎えられるのは素晴らしいことだ。
「そういえば、まだ聞いていなかったね。バレットは明日からどうするんだい?」
不意に、ジャーヴィスがそんなことを尋ねる。
俺がやること――アルバース家の領地を父上から引き継ぐため、領地運営の勉強をする。
それが普通なのだが……その前に、俺にはやらなければいけないことがあった。
そのために、
「俺はちょっと旅に出てくるよ」
「「「「「旅っ!?」」」」」
これにはその場にいた全員が驚いた。
「旅ってどこへ!?」
「いや、それはまだ何も……とりあえず、いろいろと見て回ろうかな、と」
「そんな……ティーテは!?」
「私も一緒に行きますよ?」
ジャーヴィスからの追及に、ティーテ自身がサラッと答える。
「い、一緒に?」
「そういうこと。まあ、言ってみれば新婚旅行だな」
ただ、式自体は戻ってからする予定だけどね。
「そうか……寂しくなるな」
「今生の別れってわけじゃないんだ。必ず戻ってくるよ」
アンドレイの肩を叩きながら、そう告げる。
俺の旅の目的――それは、この世界のどこかにいる原作ラスボスのライネリアを捜しだすことにあった。
今もきっと、自分の生きる意味を求め続けているだろうライネリア……彼女を救いだせればこの物語は最高のGOODエンドを迎える。
それが終わってから、ティーテと結婚式を挙げて、領地運営の勉強に入るつもりだ。
さて……帰ったらすぐに旅の準備をしないとな。
◇◇◇
翌日。
「さあ、行こうか」
「はい!」
俺たちの両親とレイナ姉さん、そしてマリナ、プリーム、レベッカのメイド三人衆――さらに屋敷に勤める全員から盛大に見送られて、いよいよ旅に出る。
今回はふたりだけの旅になる……はずだったのだが、
「おともしますよ、バレット様」
「やはり、ふたりだけというのは安全面を考慮しても不安だろうからね」
「ラウル!? それにジャーヴィスも!?」
騎士団に入ったはずのふたりが、俺たちの旅に同行するという。
「き、騎士団はいいのか?」
「昨日、団長と話はつけてきました」
「そういうことさ」
な、なんて行動力……まあ、それだけ俺たちを心配してくれていたってことだな。
「旅が賑やかになりますね、バレット」
「ははは、そうだな」
ティーテも喜んでいるみたいだし、これはこれでいいかな。
楽しくなりそうだし。
「よし! それじゃあ行こうか!」
「はい!」
「どこまでもおともしますよ!」
「何が待ち受けているのか……楽しみだね」
こうして、嫌われ勇者に転生した俺の新たな物語が始まった。
今度は愛され勇者として――みんなとともに生きていくための物語が。
嫌われ勇者に転生したので愛され勇者を目指します! ~すべての「ざまぁ」フラグをへし折って堅実に暮らしたい!~ 鈴木竜一 @ddd777
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