第314話 君と歩む世界

 俺は元の世界へと帰ってきた。

 ライネリアによってみんなが倒されるという衝撃的かつ絶望的な光景を目の当たりにした時はもうダメかと思ったが……こうして戻ってこられたということは、この世界を破壊しようとしていた彼女の理解を得られたというわけだ。


 その後、俺は学園にある医務室のベッドで一日安静にしているようにと医療担当の教師に告げられた。

 ランドルフ学園との交流会は当然中止。

 最後にアンネッテ生徒会長がお見舞いに来てくれて、「来年の春にまた交流会をしましょう」と提案してくれた。

 もちろん、俺はこれを快諾――が、春には卒業して次の世代に引き継いでいるため、そちらに頑張ってもらうしかない。恐らく、今の生徒会で唯一の二年生であるマデリーンが新会長になると思うから、彼女にもあとで伝えておこう。


 そんなことを考えていると、突然医務室のドアが開く。

 入ってきたのは意外な人物だった。


「まさか久しぶりの再会がこのような場所とはね」

「っ!? アビゲイル学園長!?」


 しばらく離脱していたアビゲイル学園長だった。


「私も今日から復帰するわけだが……君は明日からになりそうかな」

「はい。本当は今からでも大丈夫なんですが……」

「無理はよくないわ。ティーテも心配するし。――って、そろそろかしら」

「えっ?」


 ふと、学園長の視線が入ってきたドアへと移る。

 すると、


「バレット! お見舞いに来ました!」


 肩で息をしながら、ティーテが医務室へと駆け込んでくる。そういえば、もう授業が終わる時間――アビゲイル学園長はそれを見越していたのか。


「ティーテ・エーレンヴェルク……元気がいいのは結構なことだが、ここが医務室であることを忘れちゃダメよ?」

「えっ? あっ! が、学園長!? す、すいません!」


 なんかもういろいろパニック状態のティーテ。

 そんな彼女の慌てた様子を見ながら、アビゲイル学園長は「ふふっ」と小さく笑う。


「今日のところはこれでお暇するわ。今回の件……詳細はまだ後日にでも」

「わ、分かりました」


 後日、か。

 俺が生徒会長でいられる期間も残りわずか――それは同時に、学園の卒業式が迫っていることと同義だった。

 学園長が医務室を去ると、ティーテがゆっくりと俺の寝るベッドへと近づいてくる。


「バレット……気分はどうですか?」

「問題ないよ。絶好調だ」

「よかったです。バレットの身に何かあったら、私は……」


 ホッと胸をなで下ろしたのも束の間、ティーテの綺麗な瞳に大粒の涙が浮かぶ。本気で俺を心配してくれていたというのがヒシヒシと伝わってきた。


「大丈夫だよ、ティーテ。君を置いて死ぬもんか」

「……はい!」


 俺は体を起こし、ティーテの涙をそっと指で拭いとる。

 こんなにも可愛い婚約者を泣かせてしまうとは……将来の夫として不甲斐ない限りだよ。


 それから、ティーテと何気ない世間話で盛り上がる。

 といっても、内容としては今日一日の振り返りって感じだ。


 卒業を間近に控えた俺たちは、最終的な進路を次々と決めていく。

 俺は実家であるアルバース家次期当主として、これから本格的に領地運営について学んでいくこととなるだろう。その傍らには、ティーテの姿も当然ある。


 これが、俺たちの【最弱聖剣士の成り上がり】なのだ。

 原作とはまったく違う流れになったけど、間違いなくここが俺たちの生きる世界なのだ。


 この先の物語は俺たちが自分たちの手でつくりあげていく。

 最愛の婚約者――ティーテと頼れる仲間たちと一緒に。



 ――っと、その前にやらなくちゃいけないことがもうひとつあったな。





※次回いよいよ最終回!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る