第313話 新しい物語

「俺たちと一緒に生きよう、ライネリア」


 心からの訴えだった。

 思えば、この世界に来た俺が最初に目標として掲げたのがティーテとの関係改善。そこからラウルやジャーヴィスといった別の登場人物に変わっていき、結果として、全員と良好な関係を築くことができた。


 ライネリアとも、きっとそれができる。

 破壊神として生まれた彼女が破滅フラグ……それを粉々に打ち砕けるはずなんだ。


「…………」


 無言を貫くライネリア――だが、その瞳から一筋の涙がこぼれ落ちた。


「さあ、行こう」


 俺はゆっくりと手を差し伸べる。

 だが、彼女にはまだ葛藤があるらしく、動きだせないでいた。


 しかし、あと一歩。

 もう少し背中を押してあげれば……


「俺が君を迎えに行く」

「っ! む、迎えに?」

「そうだ。学園を卒業した後、俺は君を捜して世界中を旅するよ。――頼もしい仲間たちと一緒に」

「バレット・アルバース……」

「だからもう一度言う……一緒に生きよう、ライネリア」


 そう告げた、次の瞬間――目の前が真っ白になった。


「うおっ!?」


 突然の閃光に目が眩み、思わず後退。

 何が起きたのかと軽くパニック状態となったが、突然の光に包まれるその感覚は決して不快なものではなかった。

 むしろ温かく、心地よささえ感じる。


「くっ……ライネリア!」


 彼女の存在を探るように手を伸ばす――と、誰かがその手を優しく掴んだ。

 ライネリアなのか、と叫ぼうとした時、


「その言葉を信じます、バレット・アルバース」

「えっ?」

「破壊するが唯一の存在意義だった私にどのような生き方を見つけてくれるのか……」

「ま、任せてくれ! 楽しい未来が待っていると約束するよ!」

「……分かりました」


 最後にそれだけを言い残して、ライネリアは手を離す。

 追いかけようにも体がうまく動かず、やがて意識まで遠のき始めた。


「ライネ……リア……」


 俺は完全に意識がなくなるまで、彼女の名前を呼び続けた。



  ◇◇◇



「――ここは?」


 目を覚ますと、俺はベッドに寝かされていた。

 どうして、と疑問に思うよりも先に、


「バレット!?」


 涙で目を真っ赤にしたティーテが、慌てた様子で俺の顔を覗き込む。


「ティ、ティーテ?」

「よかったです、バレット様!」

「心配したんだぞ、バレット!」


 続いてラウルにジャーヴィス、それからユーリカにアンドレイにマデリーンにクライネ、さらにはテシェイラ先生やウォルター先生、マリナにプリームにレベッカのメイド三人衆の姿もあった。


「みんな……どうして……」

「どうしてじゃねぇよ!」

「バレット先輩が時計塔の近くで倒れているのをティーテ先輩が見つけてここまで運んだんですよ?」


 ちょっと怒り気味に、アンドレイとマデリーンが告げる。

 時計塔で……そうだった。

 マルゼといろいろあった末に、乱入してきたライネリアによって別世界へと飛ばされていたんだ。

 ――って、待てよ。


「俺……帰ってきたのか……」

「? 何を言っているのよ。ここ以外のどこに帰るって言うの?」


 呆れたように、クライネが言う。

 でも、俺が無事と分かって先生たちやメイド三人衆も安堵しているようだ。

 みんなの顔を見て、俺も戻ってこられたことを喜ぶと同時に、これから果たさなければならない約束を思い出す。


 この世界のどこかにいるライネリアを捜しだす。

 とりあえず、学園卒業後に動きだすとして……その前に、やらなければいけない仕事が山積みだ。

 まずはそれを片づけてから行動に移るとしよう。

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