第3話 小さな魔女
私の名前は黒音つむぎです。十歳です。小学四年生の魔女です。
今日も黒色のワンピース、大きな赤色のリボン。
そしてお気に入りの赤色のランドセルを背負って学校へ行きます。
いつも学校に行くとき、近所の公園に寄ってお話をしている
おじいちゃんとおばあちゃんたちに大きな声で
「ごきげんよう!紳士淑女の皆様!」
と挨拶をします。
おじいちゃんとおばあちゃんたちはいつも笑顔で
「小さな魔女さん。ごきげんよう。」
と言ってくれます。とても幸せです。
いつも学校に行くとき、近所のパン屋さんに寄って
パン屋のおじさんに
「ごきげんよう!パン屋のおじさん!」
と挨拶をします。
パン屋のおじさんはいつも笑顔で
「小さな魔女さん。ごきげんよう。」
と言って焼き立ての菓子パンを一つくれます。とても幸せです。
いつも学校に行くとき、近所のお家の飼い猫のチコに
「ごきげんよう。チコ。」
と挨拶をします。
チコはいつもニャーと鳴いてくれます。とても幸せです。
今日は学校の帰り道、百円玉を拾いました。
私は良い魔女なので、すぐ警察の人に届けました。
警察の人は
「ありがとう。小さな魔女さん。」
といつもは怖い顔をしているのに、とても優しそうな笑顔で言ってくれました。
とても幸せです。
今日は学校の帰り道、ゴミを道に捨てたお兄さんに私は良い魔女なので、注意しました。
お兄さんは怒った顔をして私を無視して歩いていきました。
でも私は良い魔女です。お兄さんのゴミを拾いゴミ箱に捨てました。
街は綺麗になりました。でも怖かったので、ちょっと幸せです。
今日は学校の帰り道、重たそうな荷物を持ったおばあちゃんを見つけました。
私は良い魔女なので、おばあちゃんの荷物を持ってあげる事にしました。
でも私にもおばあちゃんの荷物はとても重かったです。
近くを通りがかった優しいお姉さんが一緒に荷物を運んでくれました。
おばあちゃんと優しいお姉さんは笑顔で
「ありがとう。小さな魔女さん。」
と言ってくれました。優しいお姉さんがほとんどの荷物を持ってくれたので
ちょっと失敗です。でも私は良い魔女です。
そのうち魔法が使えるはずです。
そうしたら魔法で重い荷物も軽々持ち上げてみせます。
優しいお姉さんにも幸せになれる魔法をかけてあげます。
私の将来の夢は魔法で沢山の人たちに幸せを届けてあげる事です。
いつもお家に帰ったら手洗い、うがいを済ませて
魔法の練習をします。中々、魔法が使えません。
お庭で、ホウキで飛ぶ練習もします。
これもうまくいきません。魔導書を学校の図書室でも探しています。
私は良い魔女です。魔女なので、その内魔法が使えて、空も飛べるはずです。
お母さんは「魔法。使えるようになった?」
と笑顔で聞いてきてくれます。私はまだ魔法は全然使えませんが
指でちょっとというサインを出します。
お母さんは「それは良かったね。」と笑顔で言ってくれます。
お父さんは仕事から帰ってきて毎日お酒を飲みます。お酒が大好きです。
でも、お酒に弱いお父さんはすぐ酔っぱらいます。顔を真っ赤にしながら
「つむぎ。魔法で俺を酒に強くしてくれー!」と言ってきます。
私はお父さんの顔に両手をくっつけて、おまじないをしてあげます。
お父さんは「おお!酔いがさめてきた!やるな!さすが我が家の魔女だ!」
と顔を真っ赤にしたまま、手を叩いて喜びます。
私の魔法はお父さんには効くみたいです。
お酒に強くなる魔法。私はもっと派手な魔法がいいです。
でも優しい家族に囲まれて、とても幸せです。
今日は親友のこはるちゃんと学校から帰っています。
こはるちゃんはとても可愛いです。そしてとても優しいです。
こはるちゃんはいつも綺麗な色のお洋服を着ています。
私も時々こはるちゃんのような恰好をしてみたいけど
私は良い魔女なので黒色のワンピース、大きな赤色のリボンだけは譲れません。
こはるちゃんはいつも私の恰好を見て、キラキラとした笑顔で
「つむぎちゃんの恰好可愛いよ。特に大きな赤色のリボンがとても似合ってる。」
と言ってくれます。私は少し恥ずかしいのですが大きな赤色のリボンをさわりながら
「ありがとう。」と幸せいっぱいに、こはるちゃんにお礼を言います。
私は良い魔女なので、魔法が使えるようになったら
最初にこはるちゃんに幸せを届けてあげます。
こはるちゃんにはずっと幸せでいて欲しいです。
こはるちゃんとバイバイしての帰り道。
近所の空き地でクラスの男子たちがほたか君をイジメていました。
ほたか君はクラスの男子たちの真ん中で座り込んで泣いています。
私は良い魔女なので、すぐにほたか君を助けに行きました。
両手をクラスの男子たちに向けて叫びました。
「あなたたちいじめはダメだよ!私は魔女だから、魔法であなたたちなんてすぐ倒せるんだから!」
私は本気で両手に力を込めました。ほたか君を助けるのは良い魔女の私の役目なのだから。
クラスの男子たちは私を見て腹を抱えながらゲラゲラと笑いました。
悪い顔をして私に向けて言いました。
「お前さ。魔女とか魔法とか、本気で言ってんの?四年生にまでなって恥ずかしいと思わないの?クラスのみんな、お前の事バカにしてるぞ。」
私はクラスの男子たちの言葉を無視しました。
「そんなことないもん!私は本当に魔女だし魔法だって使えるんだから!」
クラスの男子たちはまた私を馬鹿にしたようにゲラゲラと笑いだし言いました。
「なら今すぐ魔法で俺らを吹っ飛ばしてみろよ!」
私は良い魔女です。人は絶対に傷つけません。でもこの時は忘れていました。
魔法でクラスの男子たちを吹っ飛ばそうと両手をクラスの男子たちに向けたまま
念じました。
“クラスの男子たちよ!吹っ飛べ!“
……。
何も起きませんでした。
クラスの男子たちはゲラゲラ笑いながら「痛い奴。」という言葉を私に残して
空き地を去っていきました。ほたか君も「ごめんね。」と私に言って
空き地を去っていきました。私は悔しさでポロポロと流れる涙を止める事ができず
しばらくうつむいたまま空き地に立ち尽くしていました。
泣きながら帰ったら、お母さんが驚いていました。
お母さんの顔を見て「お母さん。私、良い魔女じゃないの?」と言って大きな赤色のリボンを外して、お母さんに向かって投げつけました。
お母さんもお父さんも、大人はみんな嘘つきです。
お母さんは怒ることもなく、私が投げつけた大きな赤色のリボンを拾い上げて
私の両手を手に取って大切そうに渡してきました。そして私の涙をハンカチで拭くと、いつもの優しい声で言ってくれました。
「私はつむぎちゃんの夢。とても素敵だと思うよ。つむぎちゃんもう立派な魔女だよ。」
私は反射的に「嘘つき!私は魔法を使えないし空も飛べないもん!」と言いました。
お母さんは私を抱きしめて言いました。
「つむぎちゃん。目に見えるものだけが魔法じゃないのよ。つむぎちゃん、お母さんもお父さんも近所のみんなも笑顔にする魔法を使っているじゃない。みんなつむぎちゃんのおかげでとっても幸せなのよ。みんなを幸せにする魔法が使えるとっても優しい魔女なのよ。」
私はもう魔法が使えていました。良い魔女でした。派手ではないけど。
目には見えないかもしれないけど、みんなに幸せを届けてあげる魔法を使えていました。
「小さな魔女さん。ごきげんよう。」「ありがとう。小さな魔女さん。」
そう言ってくれた人たちの笑顔が私の頭の中を埋め尽くしました。
私はみんなの笑顔を見るだけで幸せです。とても幸せです。
「お母さん。ごめんなさい。」と泣きながら謝りました。お母さんは優しくそっと私を包んでくれました。
今日も黒色のワンピース、大きな赤色のリボン。
そしてお気に入りの赤色のランドセルを背負って学校へ行きます。
みんなに幸せを届けてあげる魔法を使いながら
今日も一日、良い魔女として私は頑張ります。
「ごきげんよう。世界の紳士淑女の皆様。」
私はお家の玄関を出る時、目を閉じて念じます。
“私の魔法で沢山の人たちに幸せを届けてあげられますように”
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