小さな魔女の幸せの魔法。
葉月あお。
第1話 コウタロウと茶々丸
僕の名前はコウタロウです。十一歳です。
僕の家族はお父さん、お母さん、男の子、僕の四人家族です。
僕はある日、高速道路の高架下の小さな公園に捨てられました。
僕のお父さんとお母さんは、僕をこの小さな公園に連れて来てくれました。
僕は久しぶりのお出かけです。嬉しくて心がウキウキしていました。
僕のお父さんとお母さんは僕が遊んでいる間にどこかに行ってしまいました。
僕はお父さんとお母さんが僕を迎えに来てくれる事をずっと待っていました。
でもどれだけ待っても、お父さんとお母さんは僕を迎えには来てくれませんでした。
僕は長い時間、自分が捨てられた事に気が付きませんでした。
おとなしく座ってお父さんとお母さんが迎えに来るのを待っていました。
周りが真っ暗になって、遊んでいる人たちもいなくなってようやく気が付きました。
僕はお父さんとお母さんに捨てられたのだと。
心の中で悲しい気持ちがたくさん溢れてきました。
僕はずっとおとなしく座っていたけど、我慢できずに大きな声で泣きました。
「ひとりぼっちは寂しいよ!悲しいよ!」
何人か大人の人が僕を見ていたけどみんな見て見ぬふりをします。
「寒いよ!早く暖かいお家に帰りたいよ!」
何度も何度も大きな声で泣きました。
途中、怖そうなおじさんが「うるさい!黙れ!」と怒ってきました。
おじさんがとても怖かったので小さな声で泣きました。
「ひとりぼっちは寂しいよ。悲しいよ。」
何度も何度も小さな声で泣きました。
すると一人のお姉さんが僕の近くに寄ってきました。
「お願いします。僕をひとりにしないで。」
お姉さんはしばらく僕の前にいましたが去っていきました。
“ああ。誰も僕を助けてくれない。寂しいよ。悲しいよ。寒いよ”
そう思っていたら、さっきのお姉さんが僕の前に戻って来ました。
「ねえ。僕を助けてくれる?」
そう言うとお姉さんは僕を抱きかかえ、歩き出してくれました。
お姉さんの温かい体温に僕はすごく安心しました。
お姉さんのお家に着きました。
僕のお家とは違って、小さくて物が少ないお家でした。
でも僕のお家とは違って、お花のような甘いいい匂いがしました。
お姉さんはお部屋に明かりをつけ、暖房をつけてくれると、
僕をお家に置いてどこかに出かけていきました。
僕は少し安心して眠りました。
眠っている間にお姉さんはお家に帰ってきて、僕にお水とごはんを用意してくれました。
ごはんは僕には少し量が多かったですが、我慢して残さず食べました。
「ありがとう。でも僕、本当はこんなに食べられないよ。」
僕はそう言いました。
お姉さんは僕をお風呂場に連れて行ってくれて、僕の体を洗ってくれました。
冷え切っていた僕の心と体を優しく温めてくれました。
お姉さんは僕の顔を見ながら、優しい顔で「もう寝る?」と聞いてくれました。
「うん。」
僕は疲れていたので、そう言いました。
お姉さんは毛布を僕にかけてくれました。
お姉さんのお部屋と同じお花のような甘いいい匂いがして、とても温かくて僕はすぐ眠りました。
次の日の朝、お姉さんは昨日と同じ上下黒色の格好で出かけていきました。
僕の事を思ってか、暖房をつけたまま出かけていきました。
昨日と同じ量の僕のごはんとお水を用意してくれていました。
昨日僕が言った事、忘れちゃったのかなと僕は思いました。
でも凄く居心地が良かったので、僕は夕方までお昼寝をしました。
お姉さんの帰りを僕はお姉さんのお家の玄関で待つことにしました。
ガチャッという音と共にお姉さんが帰ってきました。
玄関で待っている僕を見ると、すごく嬉しそうな顔をして、
僕を抱きしめてくれました。お姉さんからもお花のような甘いいい匂いがします。
お姉さんは自分のごはんと一緒に僕のごはんとお水の用意をしてくれました。
僕はお姉さんと並んで、ご飯を食べました。
「お姉さん。ごめんなさい。今日は我慢してもこの量は食べきれないや。」
そう言うと心配そうな顔で僕を見て、何やら手帳のようなもので
真剣な顔で調べものをしはじめました。
大人の人は、お姉さんと同じ手帳をみんな持っています。
しばらく真剣な顔をしていたお姉さんは、安心したよう顔をして僕の頭をなでながら「ごめんね。ちょっとごはん多かったね。」と言いました。
「うん!」
と僕は元気よく答えました。
ご飯を食べ終わった後、お姉さんと僕はお話をしました。
お姉さんはどうやら僕の名前を考えてくれているようです。
僕はお姉さんに「僕の名前はコウタロウです!」と言いました。
ポンッとお姉さんは手を叩くと、「君の名前は茶々丸です。」と笑顔で言いました。
「違うよ!僕の名前はコウタロウだよ!」
と大きな声で言いました。
お姉さんは「そかそか。気に入ったか。」と僕を抱きしめてくれます。
お姉さんからは相変わらずお花のような甘いいい匂いがします。僕はお姉さんの優しい匂いが大好きです。そしてお姉さんに抱かれていると、とても安心します。僕はお姉さんが喜んでくれるのなら、名前なんてどうでもいいやと思いました。今日から僕は茶々丸です。
お姉さんとの暮らしはとても幸せです。ごはんの量も僕が食べられる量になりました。
お姉さんは僕がお家の玄関で待っているととても喜んでくれるので、僕は毎日空が暗くなると玄関でお姉さんの帰りを座って待ちます。
そんなお姉さんとの暮らしも長い時間が経ちました。
もう今はお姉さんが暖房を付けてくれなくても過ごしやすいです。
お姉さんと長い時間一緒に暮らしていると、お姉さんのことが良く分かります。
お姉さんは四角い画面から流れる絵を観てはよく泣きます。
お姉さんは音楽を聴くとよく泣きます。
お姉さんは時々お酒を飲んでは泣きます。
お姉さんは時々お家の玄関で待っている僕を抱きしめては泣きます。
お姉さんはとても泣き虫です。
お姉さんの目から零れ落ちる涙を僕はいつも拭いてあげます。
お姉さんが泣いた日は決まって僕はお姉さんのお布団で一緒に寝ます。
お姉さんは泣き虫ですが、それと同じくらい優しいです。
とてもとても優しいです。僕はお姉さんが大好きです。
お姉さんとの暮らしも、さらに長い時間が経ちました。
外はミーンミーンとうるさいです。
お姉さんは最近暖房ではなく冷房を付けてお家を出ます。
お姉さんはとても幸せそうです。
お姉さんの手帳がピコンと音を出すと、お姉さんはすぐ手帳を真っ直ぐ見つめます。
そしてすごく嬉しそうな顔をして僕を抱きしめます。
お姉さんの力が強すぎて少し痛いです。
でもお姉さんがとても嬉しそうなので僕は我慢をします。
お姉さんが嬉しいのなら僕も嬉しいです。
お姉さんとの暮らしも少し時間が経ちました。
外からミーンミーンという音が無くなりました。
「今日は暑くないかな?」と言ってお姉さんは窓を開けてお家を出ます。
今日は、お姉さんは出かけないみたいです。
でも今日は朝からお姉さんはソワソワしています。
お姉さんの恰好もいつも以上に綺麗です。
何度もお姉さんは鏡の前で自分の顔と姿を確認しています。
お部屋にピンポーン!という音が響きました。
お姉さんは僕を抱きかかえ、お家の玄関に走っていきます。
玄関を開けるとお兄さんが立っていました。
「お邪魔します。」とお兄さんはお姉さんに言うと、僕の頭をなでてくれました。
お姉さんとお兄さんはとても楽しそうにお話をしています。
お姉さんの顔がいつも以上に嬉しそうです。
お兄さんはお姉さんがいないとき、とても優しい顔をして僕とお話をしてくれます。
僕もお姉さんと一緒でお兄さんの事が大好きになりました。
お姉さんの名前はお兄さんが教えてくれました。
お姉さんの名前は菜奈ちゃんだそうです。
お兄さんが帰った後、菜奈ちゃんは僕を抱きかかえてダンスをしています。
幸せです。菜奈ちゃんも僕もとても幸せです。
菜奈ちゃんとの暮らしもさらに少し時間が経ちました。
菜奈ちゃんは暖房を付けてお家を出ます。
僕は空が暗くなったので、いつもと同じようにお家の玄関に向かいます。
玄関について座りました。
“あれ?寒い”
いつも菜奈ちゃんは僕が快適に過ごせるよう、お部屋の温度を調整してくれています。
寒いはずはありません。
でも本当に寒いです。体も重いです。
眠くないのに座ることもできません。目が閉じそうです。
“寒い。寒いよ。菜奈ちゃん早く帰ってきて”
少しすると菜奈ちゃんが帰ってきました。
“よかった。菜奈ちゃんだ”
菜奈ちゃんは驚いた顔で、玄関に自分の荷物を投げ捨てました。
僕を抱きかかえて必死に走っています。
菜奈ちゃんはそんなに体力はありません。
ぜえぜえと呼吸はとても苦しそうです。
でも菜奈ちゃんは走ることをやめません。
僕は病院に来ました。
白色の服の大人の人は菜奈ちゃんと何かお話をしています。
泣き虫の菜奈ちゃんがまた泣き出しました。
白色の服の大人の人は悪い人です。
菜奈ちゃんは僕の体を必死に抱きしめています。
「茶々丸!茶々丸!」と何度も泣き叫んでいます。
僕はもう寒くありません。
そのかわりとても眠いです。
菜奈ちゃんが僕に向かって必死に泣きながら名前を呼んでいるので返事をします。
菜奈ちゃんはとてもいい人間です。
菜奈ちゃんの大切なお兄さんもとてもいい人間です。
僕は眠る前に菜奈ちゃんに心の中で話しかける事にしました。
“菜奈ちゃん。いままで本当にありがとう。僕とても幸せだったよ”
“菜奈ちゃん。お兄さんと幸せになってね”
“菜奈ちゃん。最後に泣かせてしまってごめんね。今日は拭いてあげられないや”
“菜奈ちゃん。僕生まれ変わっても菜奈ちゃんと一緒にいたいな”
“菜奈ちゃん。本当にありがとう。僕は菜奈ちゃんと出会ってとても幸せでした”
“おやすみ。大好きな菜奈ちゃん”
僕は完全に眠りにつく前、お花のような甘いいい匂いがしました。
僕は大好きな菜奈ちゃんの優しい匂いに包まれながら眠りにつきました。
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