香る少女

　中学１年生の咲希は、居場所を感じられず、学校へ行かない。
そのことを母親が、咲希を連れてアロマ調香師真理子さんに相談しに行く。入り口から葛の香りが立ち、咲希は不思議な懐かしさを感じる。真理子さんの工房には、武蔵野の原生林の写真が飾られ、その豊かな緑の中で香りを想像しながら作るのだと言う。
　そこへ、真理子さんの息子である大学生の章太郎が現れ、咲希と散歩に出ることになる。小学校卒業後、まだ学校に行っておらず、恋愛経験のない咲希は、年上のお兄さん的な章太郎といっしょにいることにやや緊張しながら、ほのかに異性の存在感を意識する。
　章太郎は中学時代、父親を亡くした。その時家に来ていた女の子に「学校に行きたくない」と呟き、その女の子は章太郎の気持ちを素直に吸い込んだ。ふと、咲希の仕草から、あの女の…続きを読む