もう一人の親友

「ん? あ、え? 留衣と……笹木くん? え、な、手……え、なんで?」

「あ、ちょっ、え、えっと……こっ、これは! その……見間違い?」


 私は彼の手をパッと離し、何も無かったように振る舞ってみる。彼が少し寂しそうな顔をしたのも、私も心の中で「なんてバットタイミング!」と叫んだのも秘密だ。秘密になってるかは知らん。


「いや、流石に無理があるんじゃ……」


 戸惑いながらもそんなことを言う彼女は、私のもう一人の親友と言っても過言では無い、沢口愛華さわぐち まなかという少女。


 私と比べるのもおこがましい程の美少女で、赤茶色い髪の毛をポニーテールに結んでおり、比較的小柄なその姿からは活発という言葉をそのまま人にしたようなイメージが湧いてくる。簡単に言えば、可愛いってことよ。私にとっては……なんだろ、天使的な存在かなぁ? 本来ならば目にするだけでも光栄みたいな。


 まあ、そんなことは置いといて、だ。


 ――この状況、どうするべきなの!?


 やっぱ手繋いでたとこ見られたよね!? 絶対見られたよね!? しかも、みんなの憧れ笹木俊之介と! ……私、終わったくない?


 私みたいな地味女がこんなに映えるイケメン男子と付き合うだなんて、妬み殺されるに違いない。これ、決定事項だよねほとんど。


 だから、しばらくは公表なんてするつもり無かったのに……油断したなぁ。


 もう、ここは潔くなるしかないか。


「……愛華」

「え、何? 留衣」

「私のこと、煮るなり焼くなり炒めるなり揚げるなり、生食するなり好きにしてください。できれば痛くないように一瞬で逝かせて欲しいな……」

「いや、生食て」


 生食がいいって人いるかもじゃん。知らないけど。


「――って、そこじゃなくて! なんで留衣と笹木くんが手繋いでたの!?」

「えと……パスで」

「パスとか無いから」


 いやぁ、潔くなるって言ったけどさ……恥ずかしいじゃん? それに、いくら親友って言ったって、妬み殺される可能性微レ存だし。


「……もう留衣に聞くの諦めるね――で、笹木くん。どういうことなの?」

「……パスで?」

「おい」


チラッと一瞬彼が私の方を見たので、なんかそれっぽい目の動かし方をして「パスと答えろ」と伝えた。正直通じる気はしていなかったけど、さすが私の彼氏と言うべきか?(照れ) ちゃんと私の意を汲み取ってくれた。ナイス。


「まあ、なんとなくはわかるよ……付き合ったんでしょ?」

「なぜそれを……!」

「いや、さっきの手繋ぎ等々見せられたら誰でもわかるって」

「ぐぬっ……」


 ……別に、言いたく無かった訳じゃ無いし、いつかは報告することにしてはいたと思うし……正直なところ、察してくれて助かったってのも否定できない。


「流石にこれ以上隠すのも無理だろうし、大人しく白状すると、沢口さんの言う通りだ。ついさっき、本当についさっき俺達は付き合い始めた」


 私が黙っていたからか、彼が私の代わりに答えてくれた。……改めて付き合い始めた実感湧いてきて、恥ずかしくなってきたんだけど……。


「やっぱりね……いいんじゃない? 私はお似合いだと思うし」

「え? お……お似合い? 私なんかと、俊之介が?」


 いやいや沢口さんや。この地味ぃな私と、キラッキラの彼がお似合い? いくら天使といえど、流石にそれは目が節穴としか言えんよ?


「私なんかって……やっぱり自覚なかったんだね。留衣は十分可愛いよ? ただ、あんまり目立たないってだけで。笹木くんもそう思うよね?」


 彼の方を向いて尋ねる愛華。何聞いちゃってんのよ、私が傷つくだけじゃんよ。


 とはいえ、そこまで言われると少し気になるところ。客観的に見て……というよりは、彼から見て、私は可愛いのだろうか?


「…………ああ」

「はうっ!」


 顔を茹でタコに比肩する程顔を赤く染めながら、恥ずかしそうに答える彼。ちょっと待て、可愛いと言われたこともそうだけど、真っ赤な彼が可愛すぎてキュン死しそう。はうっ。


「……なんでだろ、口の中が甘ったるいや」


 少し遠い目をしながら、愛華はそう呟く。いや、ほんとすみません。謝ることなのかよくわかんないけど。


「……っと、これ以外にも色々聞きたいことあるけど、そろそろ時間が――」


キーンコーンカーンコーン


「「「あ」」」


 やべっ、時間がっ!


 言葉を交わすことなく、私達は教室へと荷物を取りに、愛華は一足先に校門へと全力疾走を始めたのだった。真面目に急がなきゃヤバい。

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大好きな幼馴染に「告白を断る練習をさせて」と言われました 香珠樹 @Kazuki453

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