手繋ぎ
紆余曲折あったが、遂に私たちは付き合うこととなった。……両想い発覚からここまでくるのに、時間かかりすぎだよね。わかってたけどさ。
そろそろ本格的に帰らなければ不味い時間になってきたので、私達は大人しく荷物を取りに戻り始める。
しかし……横にぴったりと並んだ私達の間には、沈黙ただ一つが漂っていた。交わされる言葉は一つとして無かったのだ。
……何この状況気まず過ぎるんですけど!?
私達は付き合った。付き合い始めた。そのはずなのに……え、何でこんなに気まずいんだろ。私何か言っちゃったっけ? 何も言ってなかったわ、うん。
いやね……原因はわかってるの。どうしてこうなってるのかってね。
でも、わかってるからと言ってすぐに変えられるわけじゃないのが、人間という生き物なんですよね……知らんけどさ。
もういいや、はっきり言おう。
――私、距離感がわかりません!!
今までは幼馴染兼親友っていう関係だったから、気楽な距離感だったのに、恋人という関係になった以上、もう少し親密にしたいわけで。
それでも、どこまでがヒかれることのない行動となるのかがわからない。彼については誰よりも知ってる自信はあったけど、これに恋愛が絡むと一気にわからなくなる。
もう……私どうしたらいいんだろっ!
と、取り敢えず……手、とか、繋いでも……いいのかな?
チラッと、右に並ぶガラ空きの彼の手を見る。
本当に、手を伸ばせば届く距離。
今までは掴むことはできなかった彼の手。
それも、ついさっき正式に解禁された。
これで、条件はほぼそろったんだ。
――足りていないのは、私の勇気だけ。
手を伸ばそうと、少しだけ手に力を込めた、その時。
ビクッ!
運悪く、その力を込めた右手が、彼の左手に触れてしまう。
私自身も想像していなかったことに、とても驚く。……触っちゃったよぉ……
慌てて私は自分の手を引き戻し、その右手を左手でガッチリと押さえ込む。
やばいやばいやばい。
心臓がバクバク言ってるわ。
だが、同じく私の手に触れたはずの彼は、動揺なうの私に更なる追撃を仕掛けてきた。
「留衣……その……」
照れくさそうな顔で、彼は口を開く。
「――手、繋ぐか?」
「え?」
いきなり過ぎて、阿呆みたいな声が出る。
いやでもしょうがないでしょ。まさか向こうからそんなこと言われるだなんて……本当に驚いた。
だからと言って、返答は決まってるが。
「……うん」
右手を押さえていた左手を退けて、彼の方へと、ほんのちょっとだけ伸ばす。
流石に、自分から繋ぐ勇気は出なかったんだよね。いつか治したいなとは思うけどさ。……いや、いつかじゃなくて、今回向こうから誘ってくれたおかげで手くらいなら繋いでもいいという確証が得られたんだ。すぐにでも繋いでやる。しばらく離す気はないけど。
そのとき、ふと過去を振り返ってみた。
最後に手を繋いだのは、いつだっただろうか。
子供の頃――それこそ、思春期とかいうめんどくさい時期に入る前は、私が手を無理矢理引っ張って遊びに連れてったりしたこともあったけど……それことこれとは、話が違う。
異性として意識し始めてからはそんなこと恥ずかしくて出来なかったし……今が高一で、好きになり始めたのは小四くらいだったはずだから……六年ぶりくらいか。
そんな昔のことなんて、あんまり覚えていなかったけど、彼の手は相変わらず暖かな温もりがあった。それだけは、手を繋いだ瞬間に懐かしさとともに思い出した。
「手が冷たい人は心が温かい」というのがあると思う。
私はこれを、真っ向から否定したい。
今繋いでいる彼の手は、とても温かい。温かくて、ちょっとだけ湿っていて。緊張しているのが手に取るようにわかる。……まあ、私も人のこと全くもって言えないんだけどね。なんなら私の手汗かもしれないし。
でも……こんな私と手を繋ぐだけなのに、緊張してくれているのだ。優しさとは少し違うかもしれないけど、私にとっては嬉しいことに変わりはない。
出来るならば、一生――は流石に言い過ぎだけど、ずっと繋いでいたいと思ったのはホント。それくらい気持ちよくて……ああ、幸せ。
頬が熱を帯びているのなんて、最早気にする余裕が無い。これこそまさに幸せの絶頂に達した状態だろうな……。
そんなことを考えながらも私達は、一歩、一歩と、少しずつ進んでいる。下校時間なんて知るか――と、吹っ切れたその瞬間。
「あ」
「「あ」」
教室から出てきた一人の女子生徒と目が合ってしまった。
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