大好きな幼馴染に「告白を断る練習をさせて」と言われました

香珠樹

大好きな幼馴染に「告白を断る練習をさせて」と言われました

※少し改稿させてもらいました。








 私、篠原留衣しのはらるいには、イケメンな幼馴染がいる。


 彼の名前は笹木俊之介ささきしゅんのすけ

 高身長でスリムな体型。おまけにバスケットボール部のエースまで務める、女子から見たらまさに理想の相手。


 告白する人は絶えることがなく、それと同じ数だけフラれたという報告も聞こえて来る。つまり、全員のことを彼はフっているのだ。


 ……で、なんでこんなことを話しているかというと――


「ごめん留衣、待った?」


 デートの待ち合わせでのテンプレのような台詞を吐きながら走ってくる爽やかなイケメン――そう、彼こそが私の幼馴染の俊之介だ。


 「放課後に校舎裏に来て」とだけ、昼休みの初めに伝えられて、ここに来てみたものの……改めて考えれば、これってもしかしてすごいことだったり?


 イケメンな幼馴染に、告白の定番場所である校舎裏にこっそりと呼び出され。


 ……もしかして、告白されちゃったりするの、私!?


 とか、柄にもない妄想をしながら「さっき来たとこだから大丈夫」などと、これまたデートの定番の台詞を吐く私。……今気付いたけど、これ普通逆だよね?


 ……まあ、それは別にいいとして。どーせ人気者の彼のことだし、地味ぃな私と違って、クラスメイトに絡まれてたりでもしたんだろうなって容易に想像できるから。


「……で、今日はどうしたの? もしかして告白でもしに来た?」


 冗談に、少しだけ期待を混ぜた言葉を言ってみる。


「告白……まあ、関係ない訳じゃないけど……ちょっと違うっていうか……」


 煮えきらない態度の彼にジトーっとした視線を送りながらも、彼が「告白」であることを否定しなかったことに興奮……しかけて思い留まる。私なんかに告白? ないない。あり得ない。


「はっきりと言いなさいよねっ!」


 軽く彼の脇腹を小突く。


「えっと、そのだな……」


 そして、私にとって地獄と呼んでも差し支えのない時間が始まりを迎えることになるのだった。


「――俺に、告白を断る練習をさせてくれ!」


  ◇


 ところで、皆さんには幼馴染がいるだろうか?


 いると答える人もいるだろうし、いないと答える人だっている。まあ、当然だよね。


 いると答えた人の中にだっていろんな種類があると思う。

 とても仲が良く、小さい頃から親友と同じような付き合い方をしてきた人。

 疎遠になってしまっている人。

 そもそも、お互い認知してはいても、喋ったことすらないのかもしれない。


 そして――幼馴染同士で付き合っているという人も。


 私達は、皮肉なことにというべきか、一番最初の例。


 親友というポジションの代わりに私がいるような感じで、そこに恋愛感情が必ずしも入っているわけではない。


 だけど……私は、そんな「親友」の代わりでしかない彼に、恋をした。してしまった。


 彼にとって私は、あくまでも友人の範疇に留まっている。普段の行動というか距離感というか、異性としての絡み方とは違う気がするのだ。


 かといって告白でもしようものなら、失敗の代償が大きい。

 運良く付き合えればそれでいいが、フラれたらもう、彼の隣にはいられない。逆に、どんな顔で彼の隣に居ればいいというのだ。


 彼の側にいることができなくなるのは、なによりも、どんなことよりも辛い。


 ……と、いうことで、私は今まで彼に告白することも、それを匂わせることすらしてこなかったのだが……


 ――流石に、「フる練習をさせろ」っていうのはないでしょう!?


 別に、彼が悪いわけじゃあないんだけれど……フクザツだなぁ……


「……なんで、告白を断る練習をしたいの?」

「それはだな……告白を断った時に、どうしても相手の女の子を泣かせてしまうんだ……それを見ると心が痛くなってだな……」


 なるほど。そういう理由ね。


「留衣しかいないんだっ! お願いっ!」


 ……でも、ここまで言われて断るのも気が引ける。

 それに、彼からしたら私が断る理由なんてないはずなんだ。


 受けるしかないかなぁ……


「……まあ、いいよ。時間もそんなにかかんないだろうし」


 告白の練習なら、文面を考えたりとか、めんどくさそうだけど、断る方だしね……無難な断り文句と口調を教えればそれで済むよね?


「ほ、本当にいいのか!」

「一日だけね、一日。明日一日」

「今日でもいいぞ? わざわざ別の日に時間取るのも申し訳ないし」


 ……こういう気遣いまでできるから、彼はモテるんだよなぁ……人のこと言えないけどさ。


「なら今日、今からね」

「うし、よろしくお願いしますっ!」

「あーはい、リラックスね〜」


 何故だか知らないが緊張しているようで、身体が硬くなっている。……まあ、だからといって体使うわけでもないし、文面考えるだけだからいくら硬くなっても構わないんだけどね。でも、緊張しない方がやりやすいからさ。


「……で、今まではどんな断り方してたの? 私を相手にしてみて、再現してみてよ」

「わかった」


 けほん。と、彼は咳払いをする。

 声を整えていたりするのかな? そこまで本気じゃなくてもいいんだけど……あくまでセリフが重要だからね。


 などと、この時はまだ余裕があった私。


 でも、改めて考えてみてほしい。


 今私の前に立つのは、私の想い人。


 そんな彼から、私は告白すらしていないのに断られなきゃいけないのだ。断られるフリだけどさ。


 だとしても、流石に精神的にきつくないだろうか?


 もはや私の心境は、処刑前の罪人のよう。


 ……どうしよう。


 だからといって止めるわけにもいかず。

 

 彼は口を開いた。



「――ごめん、君には興味が無いんだ」



「ぐはっっっっっっっ!」


 クリティカルヒット。


 俊之介の口撃は、留衣の急所に当たりましたとさ。


「る、留衣!? 大丈夫か!?」

「な、何でもない…………」


 想像以上だった。


 彼の断り方の壮絶さも、告白もしていないのにこっぴどくフラれた辛さも。


 自分に対して言われたことじゃなかったとしても、これはきつい……。

 本当に告白してこの反応で返されたら、私の場合一日は立ち直れないなぁ……。


 これは、早急に改善すべき。


 瀕死状態の私は、すぅっと深呼吸をして立ち直る。


「……まずは、文面イチから考えなきゃだね、これは」

「そ、そこまで……」

「女心を理解するところから本当なら始めるべきだけどね……これはなるはやで改善しないとだから、取り敢えずの応急処置」

「…………はい」


 余りの評価に軽くショックを受けた様子の彼。


 心を鬼にして……というか、これから自分が受ける被害を最低限にするためにも、もっと断り文句を柔らかくしなければ。


「俊之介の悪い点一つ目! ストレートに言いすぎ! 思いやりが足らない! お世辞でも『気持ちは嬉しいけど~』とかつけるべき!」

「………………あい」

「次! もう無い!」

「無いんかいっ!」


 そもそも、思いやりが足らないから女子を泣かせているわけであって。

 逆に言えば、それ以外に泣く理由なんてないと思うし。


「この調子じゃあ俊之介本人に考えてもらうのは無理そうだから、お手本として私が考えたのをアレンジするってことで良い?」

「お任せします……」


 未だへこみ状態の彼を横目に、私は頭の中で文章を練り上げていくのだった。


  ◇


 下校時刻が近づき、そろそろ帰るために教室に荷物を取りに行った方がよくなってきた頃。


「ごめん、君の気持ちには、答えられない。もちろん君のことは魅力的だと思っているよ。でも……君を愛することはできない」

「そっか…………よし、オッケー!」

「っし!」


 ばっちり、とグーサインを出す私に、ガッツポーズで答える彼。


 やっと。

 やっと、終わった……。


 文章を考えても、それが棒読みすぎたり。

 ちょっとオリジナリティーを加えたいとか言って、よくわかんないセリフを付け加えたり。


 大変だった……。


 出来上がったセリフは、少し気障きざなようにも思えるが、爽やか系のイケメンである彼にはこれくらいでも丁度いいだろう。イケメンの力、凄い。


 だんだんと受ける被害も小さくなっていき、終盤では返答のする余裕さえできた。大きく進歩したといっても過言ではないかもね……。


「もうこれで心配はなさそうだね」

「助かったよ、留衣。ありがとう」

「本当に感謝の気持ちがあるなら、帰りに何か奢ってもらおっかなーっ!」

「……うぐっ……金額は、俺の財布と要相談でな……」

「どーしよっかなー」


 そんな風に楽しく会話をする私達。


 この時間が、一生続けばいいのに……。


「んじゃ、教室戻るか」

「ん」


 二人して、校舎裏から教室の方に向けて歩き出す。


 ……それにしても、彼が告白を断る理由って何だろう?

 単純にその人が好きになれないっていうのもありそうだけど、今まで彼に告白した人の中には性格もよく、顔もいい、という人がいた気もするし。


 ……この場に居るんだし、折角の機会だから聞いてみよっかな。


「ねえ、俊之介。そういえば、何で告白を断ろうとするの?」

「―――――っ!」


 ビクッと、普段あまり見せない動揺が伝わって来た。


 これはもしかして……「好きな人が他に居る」って感じ?


 そう自分で考えた瞬間、しっくりくるものがどこかあった。


 どうしてしっくり来たのか、わからない。わからないけど、恐らくは最近の彼の様子だろうか。


 数年前までよりも、少し距離を感じるようになってきていた。


 恐らくは、自分の気が他の人にあると思わせたくはないから。


 ――そっか。やっぱり、好きな人くらいいるよね……。


 寂しいような、悲しいような、辛いような。


 いるんな気持ちが、私の心の中を巡る。


 巡って、巡って、巡って。


 ――ふと、こんな言葉が私の口から出てきた。


「ねえ――」







「――ずっと前から、好きでした」







「え?」


 呆けたような声。


 私だってびっくりだ。

 まさか、自分が告白をしてしまうだなんて。


 それも、あんなにフラれるフリをした後に。



「……それは、練習? それとも――本気?」


「……本気って言ったら?」


 この後の言葉はわかっている。

 なんなら一緒に考えた。


 ああ……この関係も、終わっちゃうんだろうな……。


 寂しいけど、告白して、ちょっとすっきりした気持ちにもなっている。

 

 何年も密かに積み上げてきた想いを、ぶちまけたのだ。

 もう、なんだか吹っ切れちゃったな……。


 諦めに似た感情が身体と、心を蝕む。


 返答までの時間が長く、とても長く感じる。


 周りはしんと静まり返っていて、私達の間にあるのは沈黙だけ。


 この沈黙が――痛い。


 早く楽にしてほしい。

 

 さっきまでは被害が少なくなるように、と、試行錯誤を繰り返してきたけれど。

 もういっそ、ぶった切ってほしい。

 根元から、この思いを断ち切ってほしい。


 妙に気遣いされるよりは、そっちの方が気が楽だ。


 今更ながら、間違えたことを教えてしまったなぁだなんて、呑気な感想が浮かんできた。


 そして――彼が、口を開いた。


 覚悟はできている。


 さあ、来い――










「――俺も好きだよ。ずっと、ずっと前から」














☆あとがき

息抜きに書きました。

「良かった」、「面白い」などの感想は、応援コメントにてお待ちしています。

反応が良ければ、この後一話分くらい番外編を書くかもしれません。

☆等も頂けると嬉しいです。


追記です。

まず初めに、この作品、異様に伸びています。

理由は恐らく、ニコニコ動画の広告に載ったからではないかと推測していますが、それでも伸びていることに変わりありません。

なので、続きを書きます。

ニコニコ動画から来られた方(違うかもしれませんが……)も、普通にこの作品を目に留めてくれた方も、面白いと思った方は、この作品をフォローしておくといいですよ!笑

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る