中央審議会への報告書

風の吹くまま気の向くまま

第1話 中央審議会への第一号報告書【秘】


1.時系列


2019年02月15日

米国の重力波望遠鏡LIGOとEUの重力波望遠鏡Virgoの研究チームにより、異常な重力波が初めて検出される。以降、同様の事例が頻発。



2019年08月01日

国連安保理にて、異常重力波に関する報告書が提出される。

報告書の中で、重力波研究の世界的権威として知られるIrvingアーヴィング Weissワイズ博士は、異常重力波が、いわゆる『異なる宇宙マルチバース』のいずれかから到来している可能性に言及。


2019年08月23日

超弦理論の論客として知られる理論物理学者Williamウィリアム Jamesジェームズ博士が、異常重力波の源となる『異なる宇宙』を特定した、と主張。

彼のチームは、既に検出されている異常重力波のパターンを解析し、次の異常重力波の検出日時、強度等の予測を発表。

同時に、『異なる宇宙』に由来する未知の素粒子が我々の世界に既に到来している可能性にも言及。


2019年08月26日

Williamウィリアム Jamesジェームズ博士の予測と極めて近似した異常重力波が、リサジュー軌道上のLISA パスファインダーにより検出される。



2019年09月03日

本年04月02日の時点で、T大学宇宙線研究所附属神岡宇宙素粒子研究施設のスーパーカミオカンデにて、『異なる宇宙』に由来すると見られる未知の素粒子の観測に成功していた事が判明。


2019年09月07日

国連安保理で関係者のみによる秘密会合。これまでのデータの解析結果が報告された。異常重力波の検出は、詳細不明の何者かが、我々の宇宙、特に地球へ何らかの意図を持って干渉を試みている証左であると断定された。

合わせて、本件に関する情報は来るべき時まで非公開とする事も申し合わされた。


2019年09月20日

米国政府が、今後予測され得る危機――『異なる宇宙』からの侵略的干渉――に対処するため、Element Reconciled with Emergency of the Nation《国家緊急事態調整委員会》 (EREN)を既に設立した、と我が国に通達。

以降、各国政府も同様の機関設立。



2019年10月03日

我が国においても、EREN等にならい、同様の目的に対処する均衡調整課を設立。



2019年11月01日

05時23分、世界中の重力波検出システムで異常重力波が検出された直後、カザフスタン上空高度2,000kmのLEO地球低軌道に、突如小惑星と思われる主体不明の天体が出現。

05時30分、小惑星は大気圏突入直前に自壊し、無数の破片となり、全世界に降り注いだ。全世界的に異常重力波が検出され、その分布は、その後の調査でおおむね、破片の落下地点と一致している事が判明した。

06時33分、A県S市砂町3丁目住宅地にある公園にて、最初の空間的異常を確認した住民からの通報。砂町派出所の警察官が現地で空間的異常を視認。

その後、全国各地で同様の通報が相次ぐ。

政府は、国民のパニックを防止するため、報道規制を実施。


2019年11月02日

04時13分、均衡調整課と陸上自衛隊合同にて、練馬駐屯地近傍にて発生した空間的異常の調査開始。空間的異常の『向こう側』へ、物質の投入が可能な事が判明したが、遠隔操作ロボットを投入しての探査の試みは失敗した。

13時28分、米国政府からの情報提供により、空間的異常の『向こう側』に、後にダンジョンと呼称される異空間が広がっている事が判明。また、同時にエジプト政府からの情報提供により、『向こう側』に、何らかの生命体が存在する可能性を把握。

しかし、以降、両国政府含めて『向こう側』に関する情報提供に、各国政府とも消極的となる。


2019年11月03日

02時25分、インターネット上に、日本国内某所の空間的異常の『向こう側』と称する動画がアップされている事が判明。直ちに削除処置が取られたが、拡散の阻止に失敗。

08時30分、政府は、国民に対し、空間的異常の『向こう側』への不用意な進入を行わないよう呼びかけた。

09時25分、均衡調整課職員10名及び自衛隊中央特殊武器防護隊15名での『向こう側』 (練馬第一ダンジョン)の調査が開始された。内部でトカゲ型の特殊生物(以降モンスターと呼称)と初遭遇したが、同時に、銃火器類、コンピューター制御の機器類は全て使用不能な事も判明。均衡調整課職員3名と自衛隊員10名が殉職。均衡調整課職員のうち、四方木よもぎ英雄ひでお係官が、異能と表現するしかない特殊能力にて、モンスターを殲滅した。モンスターはあとに魔石と呼称される不可思議な鉱石を残し、遺骸は光の粒子と化して全て消滅した。


2019年11月04日

09時00分、第一回中央審議会開催。前日の練馬第一ダンジョン内部調査の結果が報告された。

10時25分、米国政府からの情報提供により、個々人の能力、異能等が、ステータスとして計測出来る事が判明。同時に、ステータス測定のための機器の提供も受けた。

12時00分、国民に対し、全国に無数の空間的異常が発生している事、空間的異常の『向こう側』は、ダンジョンと呼称する異空間に繋がっている事、ダンジョン内部には、我々にとって未知なる危険な特殊生物、モンスターが徘徊している事、引き続きダンジョン内部への無許可進入を禁止する事を発表。同時に報道規制も解除した。

同日、斎原グループの斎原重工に、ステータス簡易測定器の量産を依頼。


2019年11月05日

この日以降、自衛隊からの選抜チーム、及び均衡調整課職員による、全国のダンジョン調査が開始された。


2019年11月10日

全国民のステータス測定を開始。米国の例に倣い、測定された能力をS、A、B、C、D、E、Fの7段階に分類。


2019年11月25日

05時18分、K県K市桜島第三ダンジョン内部より、空間的異常を通過して、多量のモンスターが出現(以降、同現象をスタンピードと呼称)。周辺集落に甚大な被害が発生。

06時00分、政府は自衛隊に対し、防衛出動を命令。国会が緊急招集された。

10時35分、Y県Y市杉山第十八ダンジョンでもスタンピード発生。周辺集落に甚大な被害が発生。

10時42分、T県T市根田第五ダンジョンでもスタンピード発生。周辺集落に甚大な被害が発生。

政府は、スタンピード発生個所周辺住民の内、異能を持つ者に対し、スタンピード制圧に協力してくれるよう呼びかけた。

18時22分、全てのスタンピードは制圧された。



2019年12月15日

『国民に対し、ダンジョン攻略を義務付ける法案』、通称“ダンジョン法”が臨時国会に提出され審議開始。


2019年12月28日

18歳以上65歳未満の国民の99%のステータス測定終了。ダンジョン法の採決が行われ、圧倒的多数の賛成により成立。



2020年01月20日

均衡調整課職員採用規定を一部変更。D級以下の職員は全員他部署へと配置転換を実施。



2020年02月01日

00時00分、ダンジョン法施行。

09時00分、第二回中央審議会開催。現在までに判明している事実の確認と、今後の方針が話し合われた。




2.2020年2月01日現在、判明してる事項


A.国内全てのダンジョン内部は、殆どの場合、常に約20℃ (293K)、1絶対気圧 (酸素分圧、0.21絶対気圧)に保たれており、人間が特殊な装備を用いなくても行動可能。


B.ダンジョンの発生位置、分布密度は、現時点での人口密度等と明確に相関関係が見られる。


C.ダンジョン内部に由来する物質の空間的異常を超えての移動は、魔石を除いて不可能。ダンジョンを構成する構造体は、採取しても、空間的異常を超えて、『こちら側』に持ち出した時点で消滅する。


D.予備的調査により、ダンジョン内部の物質は、素粒子レベルで我々の知る物質と異なる可能性があると判明。


E.モンスターは、スキル等で行動不能にした場合、ダンジョン外に搬出可能。しかし、解剖等を試みると、HPを全損した時点で光の粒子となり消滅する。また、構成する物質が素粒子レベルで異なるためか、CT、MRI、X線等非侵襲的手法による調査も不能。よって、繁殖能力、活動エネルギーの獲得方法、モンスター同士で捕食・被捕食の関係性が存在するのか含めて、詳しい生態は不明。


F.現在の所、モンスターは、ダンジョン内で自律的に増殖していくものと考えられている。ある一定数を超えると、空間的異常を超えてダンジョン外に溢れ出し、スタンピードを発生させる。


G. ダンジョンごとに、モンスターの種類、強さが固定されている。これは現在までの所、各ダンジョンにおいて、不変である。


H.モンスターの残す魔石には、我々の知る物理学的法則に従わない力――魔力――が封じられている。魔力は、一部の人々の異能 (魔法、或いはスキルと呼称)の源泉である事が確認されている。魔石からの魔力の抽出技術は、間も無く確立される。


I.均衡調整課職員及び自衛隊員等のステータスを継続的にモニターした結果、ステータスは、いかなる手段を用いても向上させる事が不可能である事が判明した。但し、加齢による変化は、中長期的に経年的なモニタリングを行わないと、結論を出す事は出来ないであろう。


J. ダンジョン内部では、火薬類の使用、電子機器類の使用が不可能となる。恐らく、ダンジョン内部の物理学的法則が、我々の知るそれとは異なるためと推測されるが、詳細は不明である。


K.人々が、魔法やスキルを使用可能となった背景には、異常重力波と共に検出された『異なる宇宙』に由来する可能性のある未知の素粒子の関与が疑われる。


L.ダンジョンの配置、内部環境、固定されたステータス。これらは、『異なる宇宙』から何らかの意図を持って、地球に干渉している何者かの存在を強く示唆している。その意図は不明ではあるが、現在の所、平和的とは言えず、引き続き警戒感を持って対処していくべきである。


M.米国はじめ、一部の国々は、現在進行中のこの事案について、明らかに我が国よりも豊富な情報を保持していると思われる。引き続き、各国政府と協調関係を保ちつつ、情報提供を求めていくものとする。



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