朝のテーブルにあるもの

 母が入院した。

 俺は元父親ではなく、母の友達のサトシの家に行った。

 サトシは優しい。そして何より気が合う。


 サトシの作ったオムライスを食べながら、お願いする。

「母さんと結婚して、俺の父さんになってよ」

「無理だよ。男女の愛情があるわけじゃない」


 入院している母にもお願いする。

「サトシと結婚して」

「無理よ。あの人を傷つけたのに、そんな我儘なことできない」


 サトシの家で、三人で退院祝いをする。

 俺は本音を爆発させた。


「なんで大人って、幸せになることから逃げるの! みんなと違うってかっこいいじゃん! 俺たちだけの家族を作ればいい。普通の家族には真似できない、最強で無敵の家族を目指そうよ!」


 単純だと失笑された。大人が複雑すぎるのだ。

 真実はシンプル。一緒にいたいのなら、生きている間に一緒に過ごせばいいのだ。



 ✢✢✢



「やっべ。朝練あるの忘れてた!」


 慌ててトーストを噛じる俺の横で、サトシが美味しそうにカフェオレを飲む。


「ゆう、鞄にお弁当入れとくね」

「サンキュー!」


 母も椅子に座り、三人で朝食を食べる。

 

 俺たちは家族になった。三人がここにいるのは、男女の愛でも血の繋がりでもない。

 愛より深く、朝日がテーブルに当たっている。




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500字の物語 遊井そわ香 @mika25

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