世界で一番大好きだよ

 朝から泣いている息子。夫は、

「子供って、苦手」

 そう言い捨てて、玄関ドアを閉めた。

 ガチャリという金属音が死刑宣告のようだった。

 夫は会社に逃げられる。私はどこにも逃げられない。

 今日も一日、一人で赤ん坊をみるしかない絶望感に襲われる。


 優しい母親になりたかった。

 無条件の愛など、私にはない。


 食べ物を投げたことに腹を立て、お昼寝しないことにイライラし、散らかしてばかりいることに怒鳴る。 

 怒ってばかりいる最低な母親。

 私は母親失格なのだ。



「やっぱりママが一番だよな」

 グズる息子の歯磨きを諦めた夫。

「あなたってずるい。すぐ逃げる」

 非難した私に、夫は「仕方ねえじゃん。俺に懐いてないし」と肩をすくめて、ゲームを始めた。

 父親は母親に放り投げればいいけれど、母親は誰に投げればいいのだろう。



 ✢✢✢



 今日も夫は帰宅が遅い。わざと残業をしているのだ。

 息子とお風呂に入る。


「怒ってばかりでごめんね。こんなママ、嫌いだよね」

「大好き」

「でも本当は嫌でしょ」

「怒った顔もかわいいよ」


 小さな手を握る。


「ゆうくん、いつもありがとう。大好きだよ」


 ダメダメな母親なのに、それでも子供は好きでいてくれる。

 無条件の愛とは何か、教えてくれる。






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