エピローグ~葉を渡る風に吹かれて
ゴールデンウイーク。
今日、わたしは、久しぶりにおばあちゃんの家に来ていた。あのママチャリに飛び乗り、輝葉姫のいる神社へ向かう。
わたしは、あれからフリースクールに通っている。まだ慣れないこともあるけれど、心の体力不足になることなく、やっていけている。先生がいて、少人数だけど生徒もいて、みんなで机に向かって勉強するっていう生活。フツーなつまらなそうな毎日は、わたしにとってはとても充実していた。
お父さんも、また忙しく働きはじめた。それでもそれは、夜に二人で夕食を食べることができる忙しさだった。わたしも、料理がずいぶん得意になった。夕食はお父さんと交代で作っている。
食事のときなどに、お母さんの話をすることがある。
「お母さんの得意料理ってなんだったの?」
とか、
「この映画、お母さんが大好きだったんだよね」
とか。たわいもない話だ。
キコキコとママチャリ号が、一面の緑の間にのびる細道を進む。リズミカルな音が、ターコイズブルーの空に響く。
田んぼは、今、
やりたいことがたくさんあった。輝葉姫とも早く会いたいし、本格的なことづての勉強もしてみたい。まだ出会ったことのないたくさんの木々と話したい。
胸が高鳴る。
感情が
鋭いブレーキ音を立てて、農道の真ん中で自転車を止める。急に恥ずかしくなって、周りをぐるりと見渡した。誰もいない。ほっと胸をなでおろす。
遠い山々から運ばれてきた春風に麦畑の穂先が揺れて、穂の音はどこまでも広がっていく。葉を渡る風に吹かれて、わたしはここにいた。
もう一度、大声で叫んだ。
姿の見えない春鳥が、それに応えるようにあっちこっちでさえずり返した。
『葉を渡る風に吹かれて』 さんぱち はじめ @381_80os
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