第2話 漂流
「……疲れた。いや、厳密には前から疲れていたがどうにかして漕ぎ続けていたが飯もなければ水もない……もう動けねぇ……。」
八百屋の男に吐き捨てたセリフと抱きつく姿が無限に頭の中でループしていた。
悔しいが、大魔女なんて居なかった。
そう思うしか無かった。
太陽が沈む方向にあるはずの島は幾ら漕ぎ続けても見つからなかった。
彼を照らすものが沈んだあと、気力をなくしボートの上で力尽きた。
その時には微かに夜霧が出ていた。
__________________
ざーっ……ざーっ……。
規則的な音。規則的に感じる感覚。意識が無くなる寸前まではなかったもの。
違和感を感じて体を起き上がらせた彼は漂流した島の砂浜で無惨に寝転がっていた。
「……ここは……無人島……?」
後方は海、前方は辺り一面に木々が生い茂っている。
ジャングルのようになっているその前方から獣の鳴き声か雄叫びかは知らないが確かに聞こえるものがあった。
しかし、運悪く男が目を覚ました時には日没寸前。それに加え食料もなかった彼に、怖いからと言って砂浜に留まる選択肢はなかった。
「ホントに無人だな……。」
日が落ちかけて、オレンジ色の光が当たりを照らす中、ギラりと輝く2つの黒い目が見えることはあるが、そのどれもが人では無いものだった。まるで餌をじっと見るような殺意を感じた。臆せずに前に突き進んでく。
「ヤシの実……か?あれは……。よっっ!っっと。……よし。」
雲が増えてきて、オレンジ色の光が無くなろうとしている時に微かな視覚情報から地上4m程のところにヤシの実らしきものを見つけた彼は、思いっきりジャンプをしてそれを見事にとって見せた。
「へへ、魔法は出来なくてもこれだけは自信があるんだ……もう少しないかな。」
辺り一面を見渡してみるが、それ以上は見つかりそうになかったので先へ進んだ。が
「……まじかぁ……。」
突然の大雨に見舞われ、偶然にも見つけた山上の洞窟に駆け込む。彼の持つ水分食料はこれだけ。普通なら調理用ナイフやらを持ってくるはずなんだが、魔法で全てが完結しているこの世の中に、彼のような人間のための道具など存在しなかった。
「かってぇ!!!!食えたもんじゃねぇな……」
力任せに噛み付くことしか出来なかった彼は、精一杯にヤシの実らしきものに噛み付いたが当然食べることは愚か、水分補給すらままならなかった。
結局得たものは、雨しのぎのための洞窟。
失った物は動く為の体力だった。
彼はまた横になって力尽きてしまった。
最果ての魔女 一粒の角砂糖 @kasyuluta
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。最果ての魔女の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
恋の方程式/一粒の角砂糖
★3 エッセイ・ノンフィクション 完結済 1話
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます