最果ての魔女
一粒の角砂糖
第1話 旅立ち
レンガの建物に真昼間から、耳を立てる不審者が1人。
「今日でこの話がされたのは100回目……!ここまで話されるということは相当危険であるということ……つまりこれは御伽噺などではなく現実……!大魔女は……いる!!!」
幼稚科の建物の壁に耳を当て、この話を腐るほど腐るほど盗み聞きをしていた男は突然大声を張り上げた。
そんなことをして誰にもみられないわけもないはずなのだが街の人の視線はその男ではなく、ただただ進む方向だった。
なぜ誰にもみられないのか。
その答えは彼が普段から笑いものだったからだろう。
「俺も魔法を使ってこの世界とおさらばだ……!!」
ぐっと拳を握り、島という情報だけを頼りに港へ歩き出した。
「よぉナーチェ!どうしたんだ今日は?」
港への道中の商店街を歩いてるところを八百屋の男がそう呼んだ。
彼と知り合いだった男はにやにやしながら近づいた。
「旅に出て飛んでやろうと思ってたんだよ。ここだけの話だがな……実は大魔女に会いにいくんだ……どうだ?すごいだろ?」
「ぶははははっ!お前っ大魔女って!っはははは!アホか!!!御伽噺だぜあんなん!」
耳元で嬉しそうに囁いてくる男に八百屋の男は腹を抱えて大笑いした。
「何がおかしいってんだ!俺は確かにその戦争を知ってんだ!だから絶対に大魔女はいるんだ!」
商店街の真ん中で声を張り上げるが、聞いているも視線をくれているのも八百屋の男だけだった。
「はぁはぁ……笑い疲れた……あのなぁ?お前がアホなのは知ってる。魔法も使えないレベルでな。あのな?魔法の才能=寿命なのは分かるな?つまり子供がお遊びで使う程度の魔法が使えないお前がそんなあるかもわからん数百年前の戦争の話が分かるわけないだろ?」
この世界の常識を男は丁寧に話した。それと同時に主張をへし折った。
「俺は魔法は使えないけど……でも!俺は知ってるんだ!昔教えてもらった魔法を!ポカヌベ……。」
大声を出しながら呪文を詠唱しようとすると、うるせぇと止められた。
「……お前の手から出てこねぇんならそれはパチモンなんだよ。忘れろ忘れろ。せめて男として婚約魔法くらい覚えたらどうなんだ?」
手を握ったり開いたりする動作を繰り返した後に、八百屋の男は、ナーチェの肩に手を乗せた。
「なんであんなバカげてる魔法を覚えなきゃいけねぇんだよ。なんだ寿命の半分捧げるとか、アホか?」
それを押しのけ、八百屋の男を睨みつけながらそう言った。
「恋心がわかんねぇゴリラは帰れ。俺は愛を見つけたんだよ。お前と違ってな。」
そう言いながら振り返り、八百屋のトマトを手に取り、それを奥にいた女に渡した。
「チッ、随分ムカつく言い方しやがって。覚えてろよお前。俺は絶対この世界を滅ぼす。大魔女と共にな。」
指を指し、確かにそう宣言した。
「おうおう頑張れよゴリラさん。んじゃ俺は大事な大事な妻との仕事があるんで、気をつけろよ。サイハテノ島!」
ぶははははっ!っと再び高笑いして手で払う動作を見せたあと、見せつけるように女にハグをしていた。
「くっそ茶化しやがって……チッ。こいつらはなんでこんなアホなことに命を削るんだ?」
アホなこと。
もとい
ともかく男はこの魔法にどうやら納得がいってないらしい。
「喰らえー!水鉄砲!!」
「うわぁっ!やったなぁ!!ファイヤー!」
「お前それはナシだろ!!熱い熱い!」
「……くそっ。」
子供のお遊びで手から火やら水が出る。
その光景を見て嫉妬する。
彼はこの子供が遊びで使う呪文すら打てない。この世界のイレギュラーだった。
実は八百屋の言っていた魔法の才能=寿命にはもう1つ項を増やす必要がある。
【魔法の才能-呪文コスト=寿命】
この呪文コストは魔法によって様々。
あのお遊びなら30分とかその程度。家の灯りを灯したままにするなら灯している間は減ってゆく。攻撃魔法なんて放とうものなら1~3日強いものだと1~2ヶ月もかかってしまう。
彼は才能を自分で無いものだと思っている。
だから魔法を打てる人々よりも少ない人生を生きていくのかもしれない。
だがそれを悪とは思ってないようだが、やはりちょっと羨ましい。
だけれど
__________________
「よし今だ……!」
港のハズレの方にあるボートの貸し出し場に来た彼は昼寝している店主をチラチラと見ながらにそそくさとボートに乗った。
「じゃあな!お前ら!!!俺は盗賊ナーチェ!!!大魔法使いになる男だ!!!」
高らかに宣言した彼の手漕ぎのボートが勢いよく発進したが止まるのはそんなに遅い話ではなかった。
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