第10話 私は貝になりたい
これは、私がスーパーの惣菜売り場(デリカ)で働いていた時のお話。
私は午後のシフトで、私の指導は、Ⅾさんという60代の人だった。この人はキャリアが長くもう8年くらい働いている。仕事は完璧である。
この人はマーライオンに負けず劣らず、よく喋る人だった。ただ、マーライオンと違うのは、ぐいぐいこちらのプライベートのことを聞いてくることだった。私は、独り暮らしの寂しさもあって、この人に聞かれるままに自分のことを話してしまっていた。
ところが、それが大きな間違いだった。
私は週4日のシフトだったのだが、Ⅾさんは週5日のシフトだった。Ⅾさんは「○○さんは独り暮らしなのに、なんでもっと働かないの」とぐいぐい迫って言ってきた。「今の給料じゃあ生活できないでしょう」「どうやって生活してるの」Ⅾさんのイライラした勢いに負けて、私はつい「親から援助してもらってるんです」と本当のことを言ってしまった。
そうしたら、Ⅾさんは「まあ、いいご身分だね」と呆れていた。ここで言わなければよかった、貯金があるとでも言えばよかったと思ったが、後のまつりである。
次の日、Ⅾさんに「○○さんは実家がすごいお金持ちでお嬢様だから、そんなに働かなくていいってみんなに言っといたから」と言われた。
なぜ、皆に言う。そもそも私が本当にお嬢様ならこんなところで働いていない。やられた。この人スピーカーだ。
私、よりによって職場のスピーカーに、なんでもかんでも話してしまった。どうしよう。
スピーカーは相手のプライベートを聞いて職場の他の人間にそのことを話す、恐ろしい人種なのである。この人種がマーライオンと違うのは、自分が喋るだけでなく、相手のプライベートに土足でずかずか入り込み、情報を仕入れて、相手を追い詰めるところだ。自分の不満を吐き出すだけでなく、相手のことも攻撃して、言葉で責め立てるところだ。
結局ここは、例のカツ丼事件で辞めることになったけれど、その時のⅮさんの捨て台詞は
「いいよね。○○さんはお金があるからすぐ辞めれて」だった。
最後までⅮさんは毒を吐いた。恐るべし、スピーカー。
私は今後働くときは、絶対に、誰にも余計なことは喋らないと固く心に誓った。最初からやけに親切な人は特に気を付けた方がいい。こちらを油断させておいて、隙あらばぐいぐい、情報を得ようとするから。
今、思えば、最初はすごく優しかった。それが私を油断させ、Ⅾさんを暴走させた。だから、最初からやけに親切な人は要注意なのである。
来春うつが良くなってもし、仕事を始めて、もしこの人種と出会ったら、私は貝になる。たとえまわりからどう言われようと、絶対自分のプライベートを話したりはしない。
読んでいただきありがとうございました。
パートあるある 私の失敗談 有間 洋 @yorimasanoriko
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