第3話 パイセン怒りの無理なシフト

 マーライオンが辞めていったのち、私が働く朝のシフトに、新しく人を募集した。今まで2人いた時間が1人になってしまったから、当然そこに人員が必要なはずだ。

 ところが、何を思ったか、店長は、夜のシフトに男性を独り雇い、朝のシフトには、ベテランの先輩たち(年はずっと下だが)3人を、それまで10時ころ出勤だったのを、入れ替わり立ち替わりで、8時頃出勤にして、シフトを組んだのである。

 先輩たちも当然文句はあったはずだ。でもいくら仕事ができるといっても、店長の言うことには逆らえない。所詮パートなのだ。だから、誰も表立っては文句を言わず働いていた。

 

 でも、先輩たちの不機嫌は朝からひしひし伝わってくる。

 

 朝は、その日発売の雑誌を、棚に並べなくてはならない。これはどの本をどこに並べるのか知っていなければ、できない。そして、スピードが要求される。9時には店が開くのだ。だが、スタッフは2人しかいない。その一人が私。当然、先輩が雑誌を並べ、私がレジを受け持つことになる。教える暇がないから、私はいつまでたっても雑誌の場所を、覚えられない。覚えられないから並べられない。このままこの日々が続くなら、私は半永久的に雑誌をならべる仕事ができないということになる。

 

それでも、常に2人体制なので、どうしようもない。その上、この作業は急ぐから、早さを要求される。どちらにせよ、まだもたもたしている私では間に合わないのだ。

 

 そして、何より大変だったのは、定期購読の雑誌の仕分けだ。私のこの書店でのメインの仕事は、定期購読しているお客様の雑誌を、朝一番に、お客様に渡せるように、分類することだったこれが、とても、時間がかかるのだ。もちろん私の作業スピードが遅いこともあるが、レジをしながら、この仕事をやるから、レジに人が並んだ時には、当然レジ優先だから、こちらの仕事ができない。でも、定期購読のお客様はいつ訪れるかわからないから、分類仕分けは朝のうちにすましておかなければならない。

 

 今、思えば、「まだ、私一人では無理なので、手伝ってください」と先輩たちに助けを求めればよかったと思う。でも、その時は、私がしなければいけないと思い込んで、休憩時間が押してしまったり、かといって急げばミスをして、間違って分類してしまったりして、先輩の怒りをかった。誰も助けようとはしてくれない。まだ、かけだしの私に、マーライオンと同じ力はない。

 

 それと、マーライオンが辞めたら、先輩のAさんは、私にいろいろいってくるようになった。私のやり方を注意するのである。たぶん、マーライオンは「何にも教えてくれない」と嘆いていたが、ああいう性格だったから、Aさんもいろいろ言いたいことを言えなかったのだなとわかった。それに比べて気の弱い私はAさんにとって何でも言いやすい相手だというわけだ。

 

 ある日、店長と2人で店に立ったことがあった。スタッフがどうしても都合がつかず、急遽、店長がシフトに入ったのだ。店長が横にいることはすごいプレッシャーで、その日は「次の日のつり銭作り」を任されのだがそれに私はものすごくもたついてしまった。ようやく何とかつり銭は用意できたものの、バックヤードで店長に「あなたは、正確さも、早さも、何にもできてない。他からもそういう声も出ています」と怒鳴られた。

 「そういう声」とは当然先輩たちの声だろうから、そうか私はこの店でも、ダメなんだなあと意気消沈し、もはや、言い返す気力もなく、結局、辞めることとなった。

 

 今、思えば、Aさんの言うことや、そんな店長の言葉など気にせず、どこ吹く風で、自分のペースでやればよかったと思う。でもあの時の私は嵐に巻き込まれたように、身体も心も疲れ果てて、せっかくの書店の仕事を辞めてしまった。悔しいけど、あの無茶なシフトでそもそもうまくいくはずがなかったのだ。


 店長がちゃんと朝のシフトの人を雇ってくれていたら、あんなことにならなかったと思う。それとも無理なシフトについていけなかった私がダメなのか。

 

 最後まで読んで頂きありがとうございました。


 

 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る