第2話 「私辞めるから」のマーライオン
前回のAさんとのこともあって、同じ書店系列の規模の小さい店に異動になった。異動先には年下だが、ベテランの先輩たち4人と、パートの人たちがいた。
最初はこじんまりして自分には向いているかなあと感じたが、それはとんでもない勘違いだと思い知るはめとなる。この書店は、店長がいなくても、ベテランの先輩4人がいれば店が回る。Aさんのような人はいないが、それはそれで、問題を抱えていた。
パートのBさんである。Bさんは、朝開店前から2時半くらいまで、私のと同じシフトに入る人で、仕事内容も一緒なので、私は自ずと、彼女に仕事を教えてもらうようになった。
ところがである。最初に彼女の口から出たのは「私辞めるから。○○さんは辞めないでね」という衝撃の告白だった。それから、出るわ出るわ、彼女がこれまでいかにこの書店で我慢してきたか、その愚痴がザーッと吐き出しても吐き出してもとまらない。「誰も何も教えてくれない」とか、自分がこの店でいかに虐げられてきたか、誰も仕事を評価してくれないか、これでもかこれでもかとものすごい早口な高い声で、シンガポールのマーライオンのごとく、ビュービューと吐き出すその激しさ。自分は言いたいことを言いたいだけ言って、「だから、○○さんは辞めないでね」と念を押す。こっちは知りたくもない実情を知らされて、これからのことを考えると私が辞めたくなってくる。
自分が辞めたいなら、残される方が、辞めないように、余計なことは言わないのが普通だろう。まして、職場の愚痴を来たばかりの新入社員に言うなんてどうかしている。自分は辞めるのだからいい。でも、残される方は不安でいっぱいなのだ。「そんな大変な職場なら私も辞めます」と私が言ったらどうするのだ。彼女は完全に私に、今までのたまったストレスを吐き出した上で辞めていこうとしている。とんだお門違いだ。
何度か一緒に仕事をするたびに、このマーライオンの毒シャワーを浴びて、私のストレスは半端ない。挙句の果てには「辞めるんだから、私が○○さんを育てなきゃ」と変な色気を出して、私のミスにものすごく怒ったり、手に負えなくなっていった。
「立つ鳥跡を濁さず」けれど、こりゃあ本当に「立つ鳥跡を濁しまくり」だ。図々しいにも程があると思うが、最後の最後まで、彼女は私には毒を吐くマーライオンだった。毒を吐ききって店を辞めていった。
毒を吐くタイプに狙われやすかった私は、今だったら、彼女の話は話半分に聞いて、まともにとりあわず、そんなにストレスをためないで、何とかしのげたかもしれないなあと、今は悔やまれる。彼女の毒シャワーをまともに浴びすぎた。それが、最終的に、この店を辞めることへとつながっていったと思うから。
実は彼女が辞めてからが、また大変なことになったのだ。
しかし、それはまたの機会に書くとにしよう。
最後まで読んで頂いてありがとうございました。
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