第8話 男子スタッフ~

 これは、私が例の「厳しくするから」のAさんがいる書店で働いていた時のお話。

 この書店には1名の男子スタッフがいた。長時間のシフトに入るので、私たち平よりランクが高い職種だったらしい。その男子スタッフが、AさんとOさんはお気に入りだった。男子スタッフEさんが来ると、AさんとOさんは急に態度が変わり、なれなれしく2人に何かとつきまとう。まるで、悪い虫が付かないようにと言わんばかり、2人が他の女性スタッフと仲睦まじくしないよう見張っている。

 ある時、私は、レジでミスをして、Eさんにバックヤードに連れていかれ、2人っきりで注意を受けていた。おそらく、レジでは雑務に追われてゆっくり指導する時間がないから、わざわざバックヤードで指導しようとしたのだと思う。

 ところが、2人っきりになったとたん、がらっとバックヤードのドアが開いて、Oさんが「ヨッシー、この荷物店長の机に置いておいていい?」と聞く。

 ヨッシーというのはEさんのあだ名で、AさんとOさんだけが親しみをこめて呼んでいる。他の女子スタッフはみんな名字で呼んでいる。それはAさんとOさんだけに許された特権なのだった

 そのOさんが、しなをつくって、甘えたような声で、ヨッシーに聞いてきた。

 Eさんは「はい。そうして」とOさんに言って、私への指導をしようとするが、Oさんはなかなか行こうとしない。

 「なに。2人だけで、仲いいのね」とOさん。

 「いえ、ミスをしたので、指導受けてるだけです」と私。

 「ふうん。マンツーマンで指導なんだあ」

と、私の方をじろりと見る。

 完全に誤解されている。っていうか、人のことは放っておいて仕事しろよ、と思ったが、Oさんは不満そうに、荷物を持って立ち去って行った。

 それから、私はEさんから指導を受けた。

 レジに戻ると、今度は Aさんが「ヨッシーから2人っきりで指導受けてたんだって」とどすのきいた声で言われた。Oさんが言ったのだろう。

 それから、このAさんとOさんの私への当たりがきつくなった。仕事をちゃんと教えてくれないし、ミスするとひどく怒る。すべてはヨッシーとの密会(じゃないけど)のせいだ。

 それに、ヨッシーも気づいたのだろう。私にはあまり近づかなくなった。

 AさんとOさんはたまに冗談めかして、ヨッシーに後ろから「あすなろ抱き」をする。完全にセクハラだと思うが、誰も止める人はいない。

 草食系男子が肉食系熟女に完全に食われている。

 ヨッシーの心中いかばかりかと思うが、はた目には気にしていないようにふるまっている。

 それから、AさんとOさんがいる時は、ヨッシーと2人きりになることはなかった。

 熟女パワー恐るべし。私も熟女だけど。

 貴重な男子スタッフ、セクハラに負けずに、今も頑張っているのだろうか?

 辞めた今思えば、AさんやOさんのことを気にせずもっとEさんにいろいろ教わりたかったと思う。なぜなら彼は仕事ができたから。

 理不尽だったなあ。でもそれが職場。今もヨッシーはあの職場でまだ、熟女パワーに負けず頑張っているのだろうか。

 心から「頑張れ」と思う。


 読んでいただきありがとうございました。

 



 

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