第42話 終話


 帝国歴334年。ドライゼンへのハイネ連邦による侵入に端を発した一連の戦争が終結して10年。


 すでに、ドライゼン海軍では自噴式爆撃飛行機械を保有し、高空より全世界の任意の目標に対する爆撃体制を整えていた。高度16000メートルを飛行する自噴式爆撃飛行機械を迎撃できる砲をアメリゴ合衆国など各国は開発を進めているが、いまだに開発に成功した国はない。



 旧大陸東側での鉄道敷設権に絡みアメリゴ合衆国とハイネ連邦共和国との軍事衝突が勃発した。この軍事衝突は、衝突を見越して当該地域での軍備を増強していたアメリゴ合衆国優位で推移していたが、ドライゼン帝国がハイネ連邦を支援すると明確に意思表示した結果、アメリゴ合衆国は旧大陸東側で保有していた利権のほとんどを喪失してしまった。



 さらに、その10年後の帝国歴344年。


 この間、ドライゼン帝国のひっ迫するエネルギー事情を改善するため、ニコラは4つの陽子を数百度の温度下で融合させてヘリウムを生み出す融合炉技術をあらゆる意味で国内に公開した。


 その後、この融合炉の小型化が急速に進み、この年、陽子融合反応を加速度的に増大させることに成功。この反応を利用し融合爆発装置が開発された。これが後の融合弾頭に発展していく。



 すでにドライゼン帝国では全世界のいかなる国、地域に対して、大型自噴飛翔体を落とせる体制を整えていた。しかも、水中発射可能な自噴飛翔体を搭載した超大型潜水艦もすでに複数隻就役している。



 旧大陸から否応なく撤退したアメリゴ合衆国だが、有力な競争相手が不在の新大陸内では近隣中小国を力で押さえつけて搾取を続けていた。しかしドライゼンへの留学などを経た知識層を核に民族主義に目覚めた中小諸国民の不満が爆発し、各地で反アメリゴを掲げた暴動が発生した。


 これに対してアメリゴ合衆国は影響下にある新大陸中小諸国に対し軍事介入を行い暴動を鎮圧していった。各国はアメリゴ合衆国に対し軍隊の即時撤退を求めたが、アメリゴ軍はアメリゴ人の生命とアメリゴの海外資産の保護を名目にそのまま居座った。


 アメリゴ合衆国の派遣した軍隊との衝突の続く中小諸国からの働きかけでドライゼン帝国が仲裁に乗り出した。内容はアメリゴ軍の撤退および中小諸国に対する損害賠償である。


 アメリゴ側は今回も超大国ドライゼンの意向に逆らうことができず、この仲裁案を受け入れ軍を引いた。アメリゴの対ドライゼン感情がさらに悪化したことは間違いない。



 ドライゼン側から見た場合、アメリゴの横暴がこれまでの各国間の紛争の大もとであるとの認識のうえ、アメリゴ解体論が関係閣僚より御前会議で述べられるようになった。これまでも、アメリゴとの経済的結びつきは強くなかったドライゼンだが、ここに来て国内のアメリゴ資本への規制強化、資本の買い取り、買い戻し。アメリゴ内からのドライゼン資本の撤退、貿易の縮小を段階的に行なっていった。



 アメリゴ問題とは別に各国の経済発展を促すため、全世界的に軍備を制限しようとの声も御前会議で上がり始めた。マキナドールと全世界を覆う自噴式爆撃飛行機械と自噴飛翔体の傘の存在の前に既存戦力は治安維持程度の意味しかないため、正面装備は不要だからである。


 アメリゴ合衆国を除いた各国がドライゼンの主張する軍事費ぐんび削減に同意した。国際紛争が起こった場合、ドライゼンが調停することを受け入れた上での同意である。結果的にドライゼンは唯一ドライゼンの影響下にないアメリゴに対する盾になることを同意し各国に約束したことになる。



 あらゆる意味で孤立したアメリゴ合衆国では不況の嵐が吹き荒れた。それに対して、ドライゼンを中心とした世界各国は軍事費の削減による財源を経済へ転用し、ドライゼンの技術を吸収しつつ発展を続けていった。


 そういった世界情勢の中で行われたアメリゴ合衆国の大統領選挙。最終的にはアメリゴの独自路線を貫こうという勢力と、現実を見据えドライゼンに追随しようという勢力の争いとなった。ドライゼンに追随しようという勢力が開票途中では優勢であったが、最終的にはアメリゴの独自路線を貫こうという勢力が大統領選を僅差で勝利した。


 これに対して、ドライゼンに追随しようという勢力が過半を占めた南部諸州が反発。南部各地で暴動が発生し、合衆国国軍が派遣されるに及んだ。


 さらに反発を強めた南部諸州は南アメリゴ合衆国として合衆国からの独立を宣言。南アメリゴ合衆国をドライゼンは即日承認し、各国もドライゼンに倣った。


 アメリゴ合衆国は南アメリゴ合衆国の独立を認めるわけにもいかず、南部諸州と内戦状態に突入した。


 ドライゼンは、アメリゴ合衆国が南部諸州での戦闘を停止しない場合、アメリゴ合衆国の首都アレクサンドリアおよびその他の北部主要都市に対し自噴飛翔体攻撃を24時間以内に行なうと警告。その警告の前にアメリゴ合衆国は戦争継続を断念。先の大統領選で新たに選ばれた大統領は南アメリゴ合衆国の独立は承認しないが、再選挙を約束し辞任した。


 再選挙の結果、ドライゼン追随派が圧勝し、新たな大統領が誕生した。南アメリゴ合衆国もその時点で解消している。


 これによりドライゼンに対する敵対国家は地上から姿を消した。



 その後、ドライゼンと各国の融合政策が推し進められ、多くの国家が解体されドライゼンの一地方としてドライゼンに組み込まれていった。



 帝国歴370年、アメリゴ合衆国を含む全国家、地域がドライゼンに組み込まれ、ドライゼン帝国による世界統一がなされた。ニコラ・ドライゼン64歳の時である。この翌年、全世界で記念金貨が発行された(注1)。




 帝国歴384年。ニコラ・ドライゼン急逝きゅうせい、78歳。


 ニコラは後継を定めていなかったため後継者選定が混乱を極め、後に禍根を残すことになる。ASUCAはマーガレットが亡くなったその日からニコラの傍らから離れることは無かったという。もちろん御前会議中もニコラの傍らに佇立していた。


 ニコラは死の間際、ASUCAに対し『これからは自由に生きろ』と指示したと言われているが、定かではない。


 ニコラは無限のエネルギーを生み出す次元位置エネルギー転換動力炉の技術の開示はしておらず、この技術も質量転換装置と同じように彼の死とともに失われた多くの技術の一つとなった。




 ニコラが没して30年。ドライゼン帝国は旧来のコルダを帝都とした(東)ドライゼン帝国と新大陸アレクサンドリアを帝都とする西ドライゼン帝国に分裂した。世界が東と西に分裂したことになる。


 名目上マキナドール・ASUCAの所有権は東ドライゼン帝国にあったが、ニコラが没し、大喪の礼が執り行われて以降、ASUCAの行方は分からなくなっていた。


 マキナドールが健在ならば分裂など起きなかったかも知れない。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 ドライゼン帝国が東西に分裂後66年が経過した帝国歴480年。なお東西両帝国とも帝国歴を使用している。



 ここは西ドライゼン帝国。航空宇宙軍司令部。この司令部は新大陸中央のジャイアントマウンテンの花崗岩の山体中に築かれている。


 司令官の座る座席の目の前には、オペレーティングデスクが置かれており、デスクの左右には赤いランプが一つずつ点灯している。皇帝による全力攻撃命令が発令されたことを表している。もちろん攻撃対象は東ドライゼン帝国である。


 こちらが全力攻撃を行えば、当然敵も全力攻撃を行う。この基地は直接破壊されることはないだろうが、生き残ったとしても地表は100年以上にわたり融合弾の炸裂で発生した粉塵による厚い雲に覆われ、人の生存圏はやがて消滅すると言われている。


 司令部要員は全800名。3年は補給なしで基地内で生活できる備蓄のほかに、安楽死用の毒薬も定数そろえられている。



 人類の未来がどういう結末になるのかは分かっていたが、命令は実行しなくてはならない。そのために彼はこの司令官席に座っている。


 副司令官がオペレーションデスクの赤いランプの横にあいた鍵穴に自分のキー差し込んだ。そして、彼も反対側の鍵穴にキーを差し込み、「1、2、3」で同時にキーを回した。これにより、航空宇宙軍の全戦力に対する全てのハード的制限が取り払われることになる。


「東側の軌道爆撃機の全軌道に対しインターセプター発進」


 高度400キの衛星軌道を周回する複数の軌道母艦から、対軌道爆撃機用軌道戦闘機インターセプターが放たれた。東側の母艦も軌道戦闘機インターセプターを放っているのは確実だ。


『わが方の全軌道爆撃機、融合弾投下シークエンス開始しました。各目標に対し順次投下』


 西側の軌道爆撃機は1機当たり32基の多弾頭融合弾を搭載している。各融合弾には16個の融合弾頭が束ねられており、目標上空で弾頭は分離し各個別弾頭が目標周辺に降り注ぐことになる。高度200キロから秒速7キロ、音速の20倍での直接攻撃を迎撃可能なシステムを両国とも持っていない。


 また、軌道爆撃機は敵方の戦闘機インターセプターの邀撃用に2機の宇宙戦闘用ドールを搭載している。これは東ドライゼン帝国の軌道爆撃機も同じだ。このドールは東側で言うところのmk8:ケルビム相当のドールを宇宙作戦用に改造したものだ。


『東側軌道爆撃機、3機撃破成功』


『東側軌道爆撃機、爆撃開始しました』


 ……。


 次々と状況報告が入ってくる。西側で融合弾の投下に成功した軌道爆撃機は58機。最終的に生き残った軌道爆撃機は28機。生き残った28機の軌道爆撃機の搭乗員たちを地上に生還させる基地もすべもすでにない。


『各基地との通信途絶しました』



――終わった。わが方の軌道爆撃機72機、東側の軌道爆撃機64機。爆撃前に撃ち落とすことはシミュレーションでは不可能ではなかった。0.03%の確率は不可能ではないと言えるが、可能であると言える数字ではない。おそらく20秒後には帝都は陽子融合の火により焼き尽くされる。30秒後にはこの惑星上の9割の人類は死滅している。


 お互いの軌道爆撃機をお互いのインターセプターがどれだけ落とせるかが人類が絶滅するかどうかを左右するとは。まあ、海軍の戦略級潜水艦からも融合弾頭自噴飛翔体を撃ちだしているはずだから、少なくとも東側きゅうたいりくは全滅するだろう。いや、こちらも同じか。




 ASUCAは、旧大陸中央で東西に屏風のようにそびえる山脈中の標高8000メートルを超える高山の氷雪に覆われた山頂に立っている。空は青というより紺色で太陽は中天でギラギラ輝いている。


 紺色の空を背景に白に近い薄黄色の筋が西から東に流れていった。


 一本、二本、光の筋は増えていった。



 天空からの薄黄色の光の筋は途中で分裂して彼方の雲海に向かって落ちていく。


 無数の光の筋が後方に噴煙を残しつつ落下する光の筋を捉えようと雲海を下から突き抜けてきたが、落下する光の筋を捉えたものはわずかだった。多くの光の筋が雲海に降り注いでいく。




 ASUCAは何の感情もあらわすことなく光の筋の行方を眺めている。


 しばらくして、眼下の雲海が地上からの光に照らされて何度も何度も明るくなった。そのうち下からの衝撃波で雲海に孔が空き、そのあとしばらくして突き上げるように湧き上がったキノコ雲がその孔を塞ぎ、さらに上へ上へと伸びていく。


 やがて、いたるところからキノコ雲が雲海を突き破り、成層圏まで吹き上がる前に西から東に向かう風に流されながら上空を覆っていった。


 1時間後、上空は厚い雲に覆われASUCAのいる山頂でさえも日が暮れたように暗くなった。






 逆境の中で生き残った人類やその他の生き物も新たな進化を遂げる。今も活動を続ける特殊生体ナノマシンの影響かもしれない。



(完)



注1:

『真・巻き込まれ召喚。~』第488話 年末行事2、ドライゼン帝国金貨

https://kakuyomu.jp/works/1177354054894619240/episodes/16816452219755211355

ここで、アスカがドライゼン帝国と人類の行く末について言及していますが、こちらに合わせて若干修正しています。






[あとがき]

『真・巻き込まれ召喚。~』中では軽く触れていますが、数千年後この世界は魔法帝国の時代を迎えます。

『魔術帝国、廃棄令嬢物語』https://kakuyomu.jp/works/16817139556324470653


さらにその数千年後、『闇の眷属、俺。~』『 常闇(とこやみ)の女神~』と続き、その数百年後『真・巻き込まれ召喚。~』の時代になります。



宣伝:

SF短編『インターセプター』(全1話、8400字)

https://kakuyomu.jp/works/16818093089704293591

本作の外伝。本エピソードの終末戦争における1パイロットを描く。


異世界ファンタジー『キーン・アービス -帝国の藩屏-』

https://kakuyomu.jp/works/1177354055157990850


完結済みSF

『宇宙船をもらった男、もらったのは星だった!?』

https://kakuyomu.jp/works/1177354054897022641


『Tomorrow the World 宇宙をこの手に』

https://kakuyomu.jp/works/16816700427625399167

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ASUCAの物語 山口遊子 @wahaha7

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