少女に自らをしてシデムシと喩えさせたもの

 生まれた瞬間からひたすらハードコアな人生を送ってきた少女が、記憶を失ったフリをして他人になりすますお話。
 序盤からいきなり情緒をへし折られました。ちょっとなんですかこの悪意と地獄のオールスター感謝祭みたいな状況。あまりにも救いがなく、そのうえ出口すら見えない無間の苦難。その畳み掛けるような重く烈しい描写に、読み始めて早々心を鷲掴みにされました。
 お話の核そのものは非常に明瞭で、これは友情の物語です。ひたすら悪意に曝され続け、とにかく生き残ることで精一杯だったひとりの少女が、不意にそれを拾ったらどうなるのか、というお話。この描かれ方がなんとも巧妙というか、それはおそらくこれまで彼女の中になかった概念、ほとんど初めて目にする宝石のようなもので、つまり的確に表現するための言葉どころか処理の方法すらわからないものを、彼女が自分の中でどう受け止め、位置づけ、噛み砕くのか。スラスラと饒舌な、一見冷静で利発そうに見える一人称体の中の、でも微かな揺らぎのようなブレのようなもの。自分自身をシデムシに喩えたことの意味。
 そのうえで、なお巧いのがきっかけとなった事件そのもの、特にその真相を読者も彼女自身も知らないことです。ある種ミステリ的な要素でもあるのですけど、でもそれ以上に一体なんてことしてくれるというかどうしてこんなひどいことが思いつくんだというか、もう本当心をメタメタにやられました。グイグイ引き込んできっちりボコボコにしてくれる、とても容赦のない作品でした。

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