6000文字に凝縮されたロマンは、一時の夢のよう

酩酊した様子の主人公の口から淡々と語られていくある町の最後の姿。
その匂いが香ってくるかのように没入感のある文章に圧倒されました。
深い価値観に裏打ちされた描写や、放り込まれてくるシンボルの色鮮やかさ。
明かされてゆく登場人物たちの表情の意味。
眼前に迫っている現実と、夢の中をさまようような展開の、その隔たり、どうしようもない距離の寂しさが胸に刺さります。
美しくも悲しい夢を見た、そんな気分になる小説でした。