腐った実が陥ちる

作者 猫村まぬる

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★★★ Excellent!!!

酩酊した様子の主人公の口から淡々と語られていくある町の最後の姿。
その匂いが香ってくるかのように没入感のある文章に圧倒されました。
深い価値観に裏打ちされた描写や、放り込まれてくるシンボルの色鮮やかさ。
明かされてゆく登場人物たちの表情の意味。
眼前に迫っている現実と、夢の中をさまようような展開の、その隔たり、どうしようもない距離の寂しさが胸に刺さります。
美しくも悲しい夢を見た、そんな気分になる小説でした。

★★★ Excellent!!!

この物語を読む前に、ベトナムとベトナム戦争の概要をご存知ない方もいらっしゃるかもしれません。簡単に記しておきます。
なお、これは私が独学で調べたことであり、誇張・誤認があるかもしれないことを、最初に述べておきます。


ベトナムはフランスにより侵略され(そのためこの物語の序盤には、フランス語のお店が登場します)、
第二次世界大戦後、ようやくフランスから独立したと思った途端、
今度はアメリカとソ連の大国同士の戦いに巻き込まれ、
ベトナムは北(ソ連側)と南(アメリカ側)に別れて戦争が起きました。

しかしその戦争は、アメリカが撤退したことと、北ベトナムが侵攻したことにより、1975年に終結します。
突然の撤退。アメリカの軍人は、ヘリコプターに乗って飛び去っていき、
北に侵攻される恐怖にとらわれた南ベトナムの人々は、必死にそのヘリコプターに乗ろうとしたそうです。

なぜなら、北ベトナムについたソ連は、侵略してくるもの、人を人と思わない、とても恐ろしいものだと言われ続けたから。
その鬼のようなソ連を倒し、彼らは世界の平和のために戦っていると信じていたから。

後はベトナムの問題だと押し付け、去っていった。
この物語は、その頃の、「幸せだった」一人の青年がみた世界の終わりです。


戦争をしなければ侵略されると言う人がいます。お前が習った歴史は間違いだと言う人がいます。
その言葉がその時真実かどうか、ちっぽけで無教養な私は判断ができません。
恐らく誰かにそう言われても、私は、この物語の結末を思い出すでしょう。

全ては腐り切る前の、甘美な香りだったのだと。

★★★ Excellent!!!

それは腐敗の始まりだったりする。

恥ずかしながら私は、ベトナム戦争の歴史をきちんと理解しておらず、語り部の立場やサイゴン陥落の背景をきちんと思い描けていないのですが、終わりゆくある戦いの、終わりゆくある街で、おそらく訪れないだろう希望を語る姿に。

そんな事を思いました。