第37話。復讐の時

「戻ったぁぁぁぁぁぁ!!」


地獄の三日間の副作用がようやく終了した飛影が元に戻り、寝転がっているダドマを睨み付ける


「あっやべ!?」


《方舟》


ダドマが魔法を使った瞬間に飛影の拳が放たれた

容赦も手加減もない飛影の一撃によって、衝撃波が発生しラインの住んでいる宮殿を破壊する


「ぎゃぁあぁぁあぁあ!!」

「逃がしたぁ!!」


その手に殴った感触が無かった飛影、刹那の差で間に合わなかったのだ

そして一番の被害者はラインである

仕事をしていた彼であるが、飛影の一撃の衝撃波により空高く放り出された


書類


仕事で必要な書類がビリビリに引き裂かれ空を舞っていた

ライン自体にそこまでダメージは無かったが精神的なダメージがでかすぎる


「飛影どうしてくれるんだ!!?」


被害

仕事の書類

宮殿が大破

部下の負傷(幸いにも重傷のものはいなかった)

仕事にかけた時間

宮殿修理代

治療費

等々


詰め寄るラインだが、飛影は知らん顔をしている


「すぐ人のせいにするとか最悪だな」

「だ!れ!の!!せいだと思ってるんだぁぁ!!」


完全に飛影のせいであるが、こうなった原因にはダドマとラインにもある

小さくなった飛影を全力でからかったため、飛影のストレスを溜めたのは紛れもなく二人なのだ


「知るか!…ほれいいからカガリに会わせろよ」


ラインに勝利したことで、約束は果たせたためカガリに面会できる飛影


「せめて…修理手伝うとか…」

「やだ!!」

「即答!?せめて少しくらいはいいじゃないか!?」


木っ端微塵という言葉がピッタリの宮殿

結界は張っていたのだが、さすがに絶対強者級の一撃には耐えきれなかったのである


「怨むならあの時、俺をからかったお前自身を怨め!!とりあえず連れてかないと瓦礫を灰にするぞ!?」


笑いながら無炎を手に灯す飛影


「あっ…それは瓦礫だけだったら嬉しいからやってくれ…そしたら連れてくよ」


瓦礫を撤去するのは面倒であるし、生き埋めになってる者も救出できる

飛影の脅しは逆にラインを助けていた


「…ち」


飛影は舌打ちを一つしながら無炎の小さな球を上に弾く


《炎舞・瓦礫撤去》


無炎の熱を指向性を持たせて照射させる

次の瞬間には、瓦礫が全て焼失されていた

勿論ラインも生き埋めになってる者も無傷であった


「おぉ~」


壊すだけならラインにもできるが、瓦礫のみを撤去するのは無理である

軽く拍手をしていた


「瓦礫撤去してくれたし…あっちに597.7メートル地点の建物に入って私の紹介だと言えば案内されるから」


ラインが指差す方向には建物がいくつも並んでいる

あまり見分けがわからない飛影はラインの言った距離はわかりやすかった


「わかった。……サンキュー」

「!!?」


ラインが驚く暇も無く飛影は597.7メートル地点に向けて跳躍した


「…へぇ~、彼が礼を言うとは思わなかったな~」


一人呟くライン

短い期間であったが飛影のキャラは理解したつもりであったため意外であった


「それだけカガリが大切だったんじゃないのか?」


一人言に返事があった


「ダドマ!!?」

「よっす…いやぁ~ひでぇ有り様だな~」


真の原因であるダドマは何もない更地を見て笑っていた


「あはは~誰のせいだと思ってるんだぁい?」


同じ様に笑うライン

その目はこう語っていた


この糞龍が、逃げやがっておかげで物凄い被害にあったじゃないか

ちゃっちゃと直せよ


「いやぁ~けど飛影はカガリ死んだときに本気で世界滅ぼそうとしたからな~…幸せなのは良いことだなぁ~」


ダドマの目は語っていた


うるせぇ腐れチート


「それ酷くない!!?チート関係ないよねぇ!!?」

「あぁ?なに言ってんだ?んなこと一言も言ってねぇ!!」

「目が語ってただろうがぁぁ!!」

「へぇ~天下の殺し合い最強の魔王がそうやって理不尽な濡れ衣着せんのか~うわぁ~ゴミだわぁ…くずだわぁ」


やれやれと溜め息を吐くダドマ

その瞬間にラインは悟った


こいつには口で勝てないと


《幻想魔境》


「あっはっは~」


悟った瞬間にラインは笑いながら魔法を発動した


「ぬぉぉ!!?」


《方舟》


嫌な気配を悟ったダドマは発動条件である光を見ないように目を瞑りながら撤退する


「くそ、逃がしたか…」

「あっそうそう」


《ナルカミ・雷》

《方舟》


声のした方へ瞬間的に雷を放つがギリギリで避けられる


「くぁぁ!!」


やり場のない怒りがラインに込み上げた


「ほれ…」


《ナルカミ・雷》


再びダドマの声、背後を取られたラインだが関係なかった

振り向かずに雷を放つ

何かを粉砕する感覚と音


「…ふ」


笑いが堪えられないライン

ようやく当てれたと余裕綽々に振り返る


「あ~あ~…さっきのは俺のせいだが今回は違うからな…もう直さんぞ」


《方舟》


振り返る直前にダドマの意味深長な台詞が耳に届いた

振り向いてはいけないと思う前に振り向いてしまったライン


「…」


そこにはダドマが直したであろう宮殿の無惨にも破壊された姿があった


「…」


しばらく立ち尽くし、その場で頭を抱えるライン


「ぐぁぁあ…ダドマごめんなさい!!謝るからもう一回修理してくれぇ!!」


余談であるが、ダドマはラインの行動を予測して破壊するだろうと思いながらわざと修理したのである

そのことに気付かないラインは一時間後に戻ったダドマに土下座をした、ダドマは内心ほくそ笑んでいたという


>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>


そんなこんなで飛影


役所のような建物の屋根に着地した飛影はさすがに屋根をぶち破ることはせずに屋根から飛び降りて扉の前に着地する


「…」


建物を下から見ていると飛影の予想とは違っていた

飛影の考えていたのは、門番がいて巨大な門がある場所を想像していたが正反対である


今メリアでは飛行船による他国への旅行を行う商業が波にのっており技術力や発想で旅行でも世界一を獲得している

その受付を行う店に似ていた


飛影が扉を開けるとその飛影の感覚は合っていた

飛影は文字が読めないが、大量に飾っている絵が書いてあるチラシを見ると旅行関係の店になっていた


「いらっしゃいませ!!ようこそ、天界旅行受付所へ!!」


飛影とラインが戦っていたおかげで人はおらずガラガラであった

暇そうにしていた天使が扉が開いたことにより活力を取り戻す


「ラインからここに行けと言われたんだが…」


とりあえず飛影は状況が理解できていないので、ラインに言われた通りの対応をする


「ライン様ですね、少々お待ちください」


受付嬢もとい受付天使が紙束を取り出して検索を始める


「…」


手持ちぶさたな飛影が様子を見ていると天使が取り出したのは300枚程の紙束である

それを一つ一つ見るとするなら時間はかなり掛かってしまう


(…う~む、人手が足りないと伝えられたことがあるが、確かにこれは手間がかかるな…)


メリアの旅行企業からも人手が足りないとセツネに伝えられていた

一緒に仕事をしていた飛影もそのことをセツネから聞いていたが、時間がなくて実際の状況を確認できていなかった


受付には受付天使が三人ほど、奥の方では数十人単位で書類整理を行っている


(単純に名前順で羅列しても駄目だな…量が多いし客は増えるし…資源が勿体無いが一人一枚にするか…日付単位で分けて、名前順で並べて…日付と名前がわかれば…見つけやすいし…複数回利用するのはその一回目の紙の続きから書けば資源の節約にもなるな…ポイント性にして五回目で安くなるとかオマケつければリピーターも増えるな……)


脳内で考えをまとめる。全てはセツネのためだ

飛影と違ってセツネは人間で寿命がある


セツネの生きた証として世界一にする

それは飛影が長年考えたセツネへの恩返しである

世界一のハンバーグ屋のおかげでこの発想ができたのだ


「大変お待たせしました」


飛影が良い案を思い付いてまとめたところで受付天使から呼ばれる

さすがに人間を越えている天使のため、飛影の予想よりは早かったがやはり改善の余地はあると結論付けて後で展開しようと頷く


「ライン様の名前で御予約されていますが、ワクワク天国体験二泊三日のプランで間違いないでしょうか?」

「はい?」


天界の旅行は飛影の想像の斜め上をいった


「…多分それだと思う」

「承知しました。それではこちらの用紙に記入お願いします。」


一枚の紙を渡される飛影だが、当然ながら文字は読めない


「文字がわからん」


書きようが無い飛影は素直に突っぱねる


「異世界からの方ですか。申し訳ありません。それでは私が読み上げるのでお答え願います」


ただでさえ天界だけで分割されている上に人間界と魔界からの死者は天界に来るため異世界という概念は理解している

そのため対応も慣れたものであった


「お名前は?」

「飛影だ」

「死者ではありませんね?」

「生者だよ」

「旅行中怪我をされても自己責任ですがよろしいですか?」

「問題ない」

「旅行期間を越えて天国にいた場合は死にますがよろしいですか?」

「別に大丈夫」

「では最後ですが、こちらを着けてください。」


飛影が受付天使から渡されたのは、腕輪であった

言われるがまま装着する飛影


「そちらが転送装置です。明後日の12時00分までに腕輪のこの赤いボタンを押すことでこちらに戻れます」

「あぁ…それがさっき言ってた旅行期間を越えるってことか」


飛影はボタンの位置と腕輪の強度を確認する


「はい、その通りです。それでは飛影様、良い旅を」


にこやかに微笑む受付天使

すると、飛影の身体は天国へと転送された


「…ここが天国か…」


飛影は周囲を見渡す

緑が多い、清浄な空気に満ち溢れている


「…意外と俗物なとこだな」


それ以外はただの何の変鉄もない街であった

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災厄の物語 ほげほげまつり @karendayo

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