時代と共に流動・変化し続けることで生き残るミーム

 ある日帰宅したらいきなり妊娠していた十歳の妹と、彼女のために頑張る姉のお話。
 民話や民間伝承を基とした怪異。わたしたちの日常の壁一枚隔てた隣、ごく身近な存在としての〝あちら側〟。このお話に書かれている恐怖はそういった種類のもので、幻想や空想の類を絶妙な生々しさをもって〝こちら側〟に移植する、その手触りのじっとり湿ったような薄気味悪さが印象的でした。
 面白いのはこの作品の構造というか、確かにホラーでありながらいわゆる怪談話ではないところ。例えば『平凡な登場人物が怪異に振り回され恐ろしい目に遭う』といった話の筋ではなく、怪異自体は(恐ろしくはあっても)ただ『ある』『そこに現れている』という趣が強く、またそれを解決する『ヒーロー』のような存在が明確に存在している点です。ちょっと乱暴な例えになってしまうかもしれませんが、ある意味では探偵ものに近いかもしれません。
 あくまでも主人公ではなく、ヒーロー。少なくともこのお話単体の主人公は上記の『姉』であり、このヒーロー役はそこに一時的に関わっただけの存在です。あるいはこのお話が連作のうちの一編であったとしたら、まさしく主人公といえる存在なのでしょうけれど。
 とまれ、そのヒーローがとても好きです。まさにあちらとこちらの境に立つ人物といった風情で、存在そのものが妖しい魔力を放っているかのようでした。殊更なにかわかりやすい異能を披露したとかでもないのに、明らかにただものではないとわかるこの感じ。きっとこのお話の後もどこかで怪異と向かい合っているのだと、そんな情景を想像させてくれる素敵なキャラクターでした。