10歳の妹のまりあが一日にして妊婦となってしまった話。
徐々にお腹が大きくなるのではなく一日で大きくなった事で普通の妊娠では無い事は分かるのですが、それでも10歳の女の子が妊娠というのは驚きがあります。
想像妊娠なので薬や手術で治る物ではなく、入院させて時間をかけて理解させていくしかないという所に現れたラフカディオと名乗る女の子。いや、ラフカディオってあの方じゃん。妖怪好きなら水木しげる・鳥山石燕に並ぶあの方じゃん!となり、そこからはとても安心して読み進める事が出来ました。
想像妊娠も妖怪も人間の人間の認識によって発生する物で、中身が無くとも本人がそうだと思い込んだらそうなる物なんでしょう。結局は頭の中と心の中で起きている現象に過ぎないのです。
まりあちゃんが知らない事を天使が喋っていたという部分は気になりますが、何か本で読んだり誰かに吹き込まれたのかもしれませんしね。
今後のラフカディオちゃんの活躍に期待します。
ある日帰宅したらいきなり妊娠していた十歳の妹と、彼女のために頑張る姉のお話。
民話や民間伝承を基とした怪異。わたしたちの日常の壁一枚隔てた隣、ごく身近な存在としての〝あちら側〟。このお話に書かれている恐怖はそういった種類のもので、幻想や空想の類を絶妙な生々しさをもって〝こちら側〟に移植する、その手触りのじっとり湿ったような薄気味悪さが印象的でした。
面白いのはこの作品の構造というか、確かにホラーでありながらいわゆる怪談話ではないところ。例えば『平凡な登場人物が怪異に振り回され恐ろしい目に遭う』といった話の筋ではなく、怪異自体は(恐ろしくはあっても)ただ『ある』『そこに現れている』という趣が強く、またそれを解決する『ヒーロー』のような存在が明確に存在している点です。ちょっと乱暴な例えになってしまうかもしれませんが、ある意味では探偵ものに近いかもしれません。
あくまでも主人公ではなく、ヒーロー。少なくともこのお話単体の主人公は上記の『姉』であり、このヒーロー役はそこに一時的に関わっただけの存在です。あるいはこのお話が連作のうちの一編であったとしたら、まさしく主人公といえる存在なのでしょうけれど。
とまれ、そのヒーローがとても好きです。まさにあちらとこちらの境に立つ人物といった風情で、存在そのものが妖しい魔力を放っているかのようでした。殊更なにかわかりやすい異能を披露したとかでもないのに、明らかにただものではないとわかるこの感じ。きっとこのお話の後もどこかで怪異と向かい合っているのだと、そんな情景を想像させてくれる素敵なキャラクターでした。