夢の鴉

 臨時休校の間、何度か保護者説明会があって、マスコミもあまり来なくなった頃に学校は再開された。

 それを機に、僕は通学路を変えた。前の道だと橋本の家の前を通ることになる。

 橋本の両親は僕を恨んでいる。息子が僕のうちの山で死んだというだけで。そして神社前で見つかった重傷の僕が入院したため、橋本たちが僕をいじめていたことが明るみに出たからという理由で。

 しょうがない。僕は意識不明だったから話さなかったけど、背中に残ってた足跡が橋本や槙田のスニーカーと一致したと警察が調べてしまったんだから。

 そのあといじめメンバー全員が次々と変死したせいで僕が方々から恨まれているらしい。でも彼らの事故のときには僕はまだ意識を取り戻してなかった。アリバイがある。

 彼らの家に、死んだはずの仲間を装った電話が何度も掛かったらしく親の何人かが家に怒鳴り込んできたというが、その時だって僕は病室のベッドの上で動けなかった。

 僕はなにもしていない。


 町の年寄りたちは、タタリ様だ、と噂している。

 戸塚の子をいじめたから、タタリ様が怒ってしまったのだ、と。


 教室では四つの机に花が飾られていたが、それもやがて置かれなくなる。

 前にも増して、誰も僕には近付かなくなり。

 それでいい、と僕は思う。


 実際、一度殺された僕は本当に、おやしろ様と融合したのだから。

 僕の中のおやしろ様の部分は、僕自身にもコントロールはできない。これまでと違い、あのおやしろの前でなくても、僕に害を与えれば相手はニエと判定される。

 謂わば、僕が動く分社なのだ。


 放課後、山に帰りやしろに入ると、大きな鏡の中にニエ――橋本たちの姿が映る。

 あの日、山を下る前からみんな、この中に。恐怖と死の夢を見せ続け、現実の身体はあちこちで殺した。


 今もおおきなからすの夢の中で、繰り返し恐れ、繰り返し殺されていることだろう。



 僕はそして、毎日鏡にささやきかける。




――オンニエウチよ。







〈了〉

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オニエワウチエ 鍋島小骨 @alphecca_

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