第2話
2.
〇月〇日
今朝はロッジわきの鶏小屋の鳴き声に反応した新型アンドロイドが、バタバタと遮蔽物を探す音で目を覚ました。
その騒ぎの理由を確認すると、突然動物の鳴き声がしたため敵兵の接近と判断し、接敵行動に移ったとのこと。
正直、この理由を真顔で告げられた際には吹き出しそうになった。普通の人間なら冗談でもいわないからだ。
とはいえ、軍事しか知らないお人形からすれば、そのような判断になるのも仕方がないのかもしれない。軍の上層部がアンドロイドに高度な思考能力を学ばせるためには、外部での経験が必要と判断したのもこの辺りが原因かと思った。
とりあえず、今の鳴き声はただの鶏の鳴き声であり警戒すべき対象ではないことを教え、人間に扮して活動する以上、二度とそんなバカ騒ぎをしないよう命令した。
ふむふむとうなづくアンドロイド。そんなアンドロイドを眺めているうちにある疑問を抱く。
つまり通常の軍用アンドロイドなら対人センサーを内蔵しているはずで、わざわざ音に頼らずとも襲撃か否か分かったのではないか。さらに言えば、襲撃と判断したのはまだしも、そのあとパタパタ動き回るなどやけに動作に無駄が多かった。基本戦術、戦闘行動がインストールされているにしてはずいぶんお粗末な動きだった。それは一体どういうことなのかと。
質問してみて衝撃の事実が判明した。この機体は経験の収集に特化したチューンの施された機体だというのだ。
つまり通常の軍用アンドロイドに搭載されているような対人センサーなど戦闘を前提とした装備は搭載されておらず、その代わり論理回路や自己認識点検回路、思考回路(ロジカル・サーキット)などが増設されているのだというのだ。
さらに戦術機動能力も抑えられていた。つまり戦術などを知ってはいてもその通りに体を動かす機能が意図的にオミットされており、知識通りに体を動かすには人間と同様己訓練を必要とした。さらに機体の出力自体も人間並みに抑えられているのだという。
数に限りのある自己学習式の新型演算機器を搭載した新型アンドロイドを、さらに予算をかけてまで機能をオミットし、あるいは経験の蓄積に機能を回す。決して多くはない予算から、更なる予算を割いてまで。ようやく、軍上層部の自律思考型アンドロイドにかける熱意の一端を覗いた気がした。
その事実に若干、うすら寒いものを思う。これだけ上層部が狂気ともいえる熱情を注いでいるこの任務、万が一にでもしくじれば、決して無事では済まされまいと。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます