第5話

5.

□月〇日

朝食の準備をしていると、アリアが自分も朝食を食べてみたいと言い出した。味覚を感じることができるのかと聞いてみると、味を分析する機能はついているという。ちょっとずれた回答にも感じたが、物は試しだ。それに二人分の食費に十分な食費はもらっている。


せっかくなので目玉焼きを作らせてみることにした。


なぜかできたのは真っ黒こげの丸い形をした何か。もったいないので食べるアリアと俺。予想通り炭の味しかしない。うええ、という顔をして目玉焼きだった何かを吐き出すアリア。


そんな顔もできたのかと思わず笑ってしまう俺。それにつられるように笑いだすアリア。


ふと、心が通じ合った気がした。



新聞を読む。革命派のテロが増加しているらしい。



□月□日

アリアが俺の教える軍隊格闘技を学んでみたいと言い出した。正直、俺の依頼された教育の内容に軍隊格闘技の内容まで含まれているとは思えない。


だが、アリアがあまりに熱心に求めるものだから教えることにした。



□月△日

アリアはずいぶんと筋がいい。いや、自立学習型アンドロイドなのだから筋がいいというのも当然の話なのだが。そうはいっても筋がいいのは本当だ。教えたことをぐいぐいと自分のものにしていくのを見るのは気持ちがいい。どこまで伸びるのかが楽しみだ。



△月□日

最近ずいぶんと暑くなってきた。相変わらずアリアの格闘技の習熟の伸びは素晴らしい。俺の教えた技を何千何万と繰り返し、より自分の体形、体格にあった技へと修正していく。


それはもはや、俺の教えた格闘術でも、勿論アンドロイドの扱う格闘術とも違う方向に進化していっている。これほどの才ある教え子、教えがいのある教え子を持ったのはアリアが初めてだ。それは自立学習型アンドロイドのなせる業かもしれない。だがそんなことはどうでもよくなってきている自分がいる。


もっと暑くなってきたら泳ぎでも教えてみようか。



×月〇日

いよいよ暑くなってきたので、アリアと裏の川で水遊びをした。さっそく買ってきた完全防水の高級カメラが役に立ったのがありがたい。撮らないでよ父さんと照れるアリアが愛おしい。


アリアは俺の子だ。



×月□日

いよいよアリアの格闘技の冴えが上がってきた。そろそろ俺でも勝てなくなる日も近い。どこまで伸びるか楽しみだ。


追記 新聞を読んだ。首都では革命派の大規模テロ、暴動が連日のように起こっているらしい。中将に俺は現役復帰しなくていいのか聞いた。君の任務は新型アンドロイドの教育だと厳しく叱られた。彼女にはアリアという名があると伝えたら、軽く笑われたのが腹が立つ。



◎月□日

最近涼しくなってきた。そしてアリアに完全に格闘技で負けた。


あれは静にして動、動にして静というべき武術の極致を見た。もはや格闘技でお前に教えられることは何もないと言ったら、顔をくしゃくしゃにして私には技術しかない、私はがらんどうだと。私は人間になりたいと。そんなことを悲痛な顔をしていう。


だから俺は人間を人間たらしめるのは信念だといった。信念を得て人は人間になり、人間は信念を失って獣になると。


父さんの信念は何なのと聞かれた。俺の信念。それは国に殉じ、国の命に従い、国の敵を討つことだ。


するとアリアは笑っていった。父さんが国の敵を討つ鉾になるなら、私は父さんを守る盾になると。どんな敵にも傷つけさせやしないと。それを私の信念にすると。


それに対し俺も笑って言う。それは頼もしいなと。そして思う。俺も男だ、負けてられない。トレーニングの量を増やすかと。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る