龍の生まれる国 第一部 王城の龍

るるる

序章

 昔、龍が跋扈していた世界があった。


 小さな手乗り龍から、見えない龍。共鳴する龍。人間に同化する龍に、翼を持つ龍と。さまざまな龍が生きて暮らしていたと言う。

 

 龍には龍の共同体としての世界があって人間とは別の世界を形成していた。彼らはピラミット型の社会を作り、王を戴き王に仕え、王を誇りとして一生を全うする。誇り高い生き物であった。


 そんな彼らは、幼体のころにつがいを見つけ、婚礼の儀と呼ばれる飛翔の後に、長い長い人生を共に生きていく、そんな伴侶が必要だった。それは、二人で一人と呼ばれるような、深い絆を持つ生き物だった。人が龍を見る時には、その仲の良さや忠誠信の厚さなどに敬意とあこがれを感じたものだと言う。


 つがいを持たずに成体になる龍は稀だったと言う。つがいのない龍は、そのほとんどが、短い命を全うすることになったと言う。成体になって数年。他の龍とは比べ物にならないほど短い一生で、だからこそ、多くの龍に慈しまれる存在だったのだろうと言われている。


 ただ、稀に、そんな孤独な龍でも、普通の龍の寿命をも超えて長く生き続ける龍もいた。美しく気高く、どの龍よりも抜きんでた知性を持ち、恐るべき能力を持つ、龍を超える存在になるほどの龍であったと言い、龍の王でさえもが、この龍に頭を垂れたと言うのだが。または、それこそが龍の王であると言うのだが、見たと言う記述はなく、孤龍の儚さに耐えかねた人間が造った物語だとも言われている。



 そんな龍と人間とが、親しく暮らしていた世界も、今は昔の物語である。



 大自然の中で、人と龍とが寄り添うように暮らしていた時代は終わり、人間の造る文明と呼ばれる華やかな世界が生まれると、龍はいつしか姿を見せなくなってしまった。北部にある大山脈の中に龍の王が姿を消し、龍達は飛翔していったのだ。と言う話もあれば、海の向こうの大陸に渡って行ったと言う言い伝えもある。


 ただ、人を凌ぐほどの賢い龍が王を戴き世界に跋扈していた時代と言うのは、今では、信じる人もほとんどいない。子供の寝物語の中だけの話になってしまっていた。過去の記述も、大都市の古道具屋の中の埋もれた古文書の中に残る程度で、まともに扱われることもない。


 時々、祭りを狙った見世物小屋の中で、造り物の翼を縫いつけた小さなトカゲが龍として人々の視線を集めるくらいで、何の信憑性もない昔語りとして残っているだけだった。

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