さながら移動遊園地のようで

最初に断りを入れておくと、私は移動遊園地なるものをこの目で見たことがない。ただ画面越しに、知識としては知り得ていたので。そして、いざ渦中に身を置いたとしたら、このような心地になるやもしれないなぁ──と思えたので。

トム・ホランドよりもホランドっぽい彼と恋人繋ぎのすえ時間跳躍する展開は、さながらジェットコースターであり、ホランドの腕の中で見るフラワーパークのレーザーショーは、さながらふたりで乗った観覧車の眼下に見渡す綺羅星であり、されど"帰還"して彼の残したくぼみを撫ぜる頃には──何やらひどく目まぐるしい、メリーゴーラウンドに乗っていただけのような夢心地もする。

相も変わらずレビューの体を成しているのか、我ながら甚だ疑問であるが──こればっかりは意図してこのように記している節もあり。そのアトラクションが面白かったかどうかなんて。結局、"体感"してみるのが一番手っ取り早いではないか。

さて、件の作品「領収書をください・雨・霞の花・四半規管」という四つのお題が織り込まれている所謂三題噺ならぬ「四題噺」であり、この手の構成で質の高い作品を読むと決まって「よく出来ているなぁ」という小学校低学年レベルの感想が口をつくのだが。

何故か、そんなふうには思わなかった。

そう思うのは、どこか筋違いであるような気がしたというべきか──考えてみると、自身に夢のようなひとときを見せてくれた存在に、つかの間の幻想に「よく出来ているなぁ」という感想を抱くのはどうにも違和感があるというか、中々に無粋である。だから──そういうことなのだろうと思う。

いつか私のもとにもチュパカブラはやって来るだろうか。私を、あなたを。吸血に値する者として見なしてくれるだろうか。親愛の情を示してくれるだろうか。

「ようこそ、君が過ごせなかった時間へ」

この気持ちは、移動遊園地の次なる巡回興行を待つそれに、きっと似ている。