第3話

 俺の名前は西宮蓮介。偏差値高めの高校に通う高校二年生だ。勉強以外は特にこれと言って良い成績は残した事がない俺であったが、この度彼女が出来た。


「夢じゃない夢じゃない夢じゃない夢じゃない」


 学校先の玄関で頬を全力で抓ってみる。側から見ればヤバイ奴にしか見えないだろうが、もうそう思われても良いくらい今の俺はヤバイ。

 そして、気がどうにかなってしまいそうだった時、そいつは突然現れる。


「お、おお、おはよー御座います! 蓮介さん!」


 おはよーの部分のイントネーションがおかしい気がする。平静を装っているようだが、どうやら小春の方もかなり動揺してるらしい。


「おはよう…こ、小春…」


 小春の顔を見た途端鼓動がだんだんと早くなり、顔に熱が帯びるのを感じる。


「っ…下の名前呼び…慣れないですね…」

「お、おう…」


………なんだよこの空気!! 付き合いたてのカップルか!! そうだよ!! 付き合いたてほやほやのカップルですが何か問題でも!?


「…その…小春さん」

「は、はい」

「今日の昼休み…空いてますか?」


 なぜ後輩に敬語を使ってるのか…というのは、俺が緊張すると使ってしまう癖があるためだ。


「あ、空いてます…よ?」

「よかったら一緒に昼飯食べませんか?」

「ッッ! 良いです…ふふっ…よっ?」


 顔のニヤけが隠し切れていない。その笑顔に俺も緊張がほぐれてくる。


「じゃあ昼休みにまたラインするから」

「は、はい…よろしくお願いします…。私もラインします…」


 なんだか返しに違和感を感じる。いつもの俺をからかうそぶりは何処へ行ったんだろうか。今では借りて来た猫のようにおとなしくなって。

 こ、ここは大人の余裕を見せねば!


「小春、今日は結構大人しいじゃん。どうしたの?」

「んなっ…なっ…大人しくないです…。この…先輩のアンポンタン」


 歯切れが悪すぎるし呼び方戻ってるし。そしてこんな小春を見ていると超からかいたくなる。


「先輩かぁ、随分と他人行儀だな」

「っ…蓮介…さん…」

「うん、よろしい。じゃあまた昼休みにね」


 大人の余裕を見せつけつつ、颯爽と立ち去る。


(ぁぁあぁ心臓止まるかと思ったぁぁ!! 何!? 小春さんアンタそんな可愛かったっけ!? ビビるくらい可愛いんですけど!?)


 口元を右手で押さえてニヤけを堪えつつ、俺は教室の方へと向かったのであった。


………

……


 昼休みの開始が知らされるチャイムの音。授業は終わり、購買に駆け込む者、学校の外にあるコンビニ、又はスーパーに向かう者も居る。

 友達が居ない俺は、いつもなら近くのスーパーで400円の弁当を購入し、そのままイートインコーナーで買うのだが、今回はそうじゃない。弁当を買って学校に戻り、スマホを確認。


『北校舎に空き教室あるんでそこで食べましょう! 504でっす! ٩( 'ω' )و』


 とまぁ、女子高生らしいそんな文面が2分前に送られていた。俺は少しだけ、ほんの少しだけ疑念に駆られつつもその教室に向かう。


「……マジで居た……」


 教室の扉を開くと、教室の後ろに積まれた机と椅子から取ったんだろう机と椅子が2つ並べられ、片方に小春が椅子に座っていた。


「そりゃ居ますよー! なんてったって最初に誘ったの私ですからね!」

「いやぁ…なんだかんだ来なくて期待してる俺を笑うのかと…」

「それは性格悪すぎますよ流石に!! しませんよそんなこと!! 折角せん…蓮介さんが誘ってくれたのに!」

「……そっか…」


 いまだにコイツの名前呼びに違和感を感じてしまう。やっぱり長い間先輩って呼ばれ続けてきたからだろうか。


「じゃあ飯食うか…」

「食べましょ食べましょー。私の作った卵焼き食べます?」

「………食う」


 小春の作った卵焼き…甘くて超うまい。

 中学の時の家庭科の授業の飯を食わせてもらった事があったが、超うまかったし。


「はーい、良いですよ〜。ってか先輩またそれですか? 飽きないんですか?」

「飽きた。けどこれが一番コスパ良いし」


 腹もはるし量も多く、何より安い。俺が長年利用しているスーパーでの昼飯最強は間違いなくコイツだと断言できる。


「じゃあ今度私が弁当作りますよ〜。3人分が4人分に増えるだけですし」


 割り箸をパキンッ、と割ったとたん、衝撃の事実が告げられる。


「おま…それ…自分で作ってんの?」


 色とりどりで栄養バランスも考えられてる弁当。羨ましいとは思っていたがまさかの小春が作っていた様だ。


「ん? はい! 親が共働きですし、私朝に強いですからね。家にあるもの使うだけなんでお昼ご飯代とかもかからないですし」


 それでこのクオリティ…何それヤバイ。小春さんマジパネェっすわ。


「…………昼飯代は出す。作ってくれ」

「はーい。良いですよ〜。ってか昼飯代いらないですよ。家の中のもの勝手に使ってるだけですし」


 だが流石にそれは俺のアウトラインだ。払うもんにはキッチリ対価を払うというのがモットーである俺にとって、出さなきゃならんというのを説得させて、俺達は飯を食い始める。


「はい蓮介さん、あーん」


 箸で卵焼きを掴んで俺の口に寄せてくる。


「バカップルみたいだな…」

「今日だけなりましょーよ」


 小春は小悪魔的笑みではなく純粋な笑顔を浮かべる。それが俺の心臓に悪すぎた。

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小悪魔後輩と付き合う様になった話 スライム @5656200391

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