第2話

「…………は?」


 頭が固まったら動かなくなる。再び再起動するには時間がかかりそうだ。


「いや…します? 私と…その…セック」

「いやしねぇよ。いや普通に会話の流れじゃねぇかあんなん」


 ようやく頭が動き出し、冗談だと受け流す事ができる様になる。というかコイツ今ヤベェ事口走ろうとしてなかった?


「そっ……すか……」


 千崎の顔はいつになく落ち込んでいて、どんよりとしていた。その顔を見ると、すげぇ胸が締め付けられる様な感触に襲われる。


「あ〜、まぁなんだ。そういうのは好きな人とやれっていう話だろ? お前もなに落ち込んだフリなんかしてんだよ」


 そんな空気を少しでも変えようとそれを言ってみるが、逆効果だった。


「落ち込んだフリでもないですし好きな人なら目の前にいます。全然そのアピールに気付いてくれなかったですけど」

「……マジでか…」


 意外にも頭はさっきよりかは冷静でいられた。もしかしたら…無意識のうちに千崎から送られてくるその感情に気付いてたのかもしれない。


「好きです‥先輩。私と付き合ってください」

「そっか…好き…か…す…き…」


 あ、やっぱごめん冷静じゃいらんないわこれ。

 

 やっばこれマジでか!? 告白される側ってこんな嬉しいもんなの!? ちょっと千崎の方向けないんだけど!!


(ぁぁあぁああなんだこれヤバィィイ!! 心臓がドクンドクンってクソうるせぇぇええ!!は!? 千崎が…俺のこと好きとか…は!? なんでこんな嬉しくなってんの!? え…ちょっと待ってもしかして俺…)


「千崎…」

「はい…」

「俺…多分お前のこと好きなんだけど…どうしたらいいと思う?」


 なにぶん人を好きになったこととか…多分ないし、どうしたら良いのか皆目見当がつかない。

 助けを求めてみるが、千崎はそこから立ち上がる。


「……じゃあシャワー浴びて来ますね〜」 

「待て待て待て待てぇええ! 浴びてくるな!!」

「え? 一緒に浴びたいんですか? 仕方ないですねぇ先輩は〜! じゃあ一緒に行きましょー!」

「違う!! いや…違くはないんだろうけどさ! ちょっと俺もお前も落ち着こうな!!!」


20分後


 ようやく落ち着きを取り戻してまともに会話できるレベルになった俺たちは、取り敢えず確認から入った。


「………つまり、先輩は私のことが好きだと」

「あぁ…そんでお前も俺の事が好きだと…」

「ならシャワー浴びに行きましょう」

「何故そうなる。シャワーから離れろ」


 千崎の誘導尋問を回避して、話を進める。


「いやぁ…にしてもその…千崎が俺の事好きだとは…」

「私も気付きませんでした…先輩が私のこと好きだと気付かなかったなんて…くっ! もっと早く気付いていれば!」


 半ばキャラが崩壊している千崎であったが、正直いまだに信じられない。男からの人気はまさにトップとも言っていい千崎が、勉強しか取り柄のない俺のことを好きになるなんて。


「千崎、本当に俺の事好きなのか? その…こう言っちゃなんだが疑うわ…」

「私こういうのでふざけたりからかったりとかはしません。私は先輩が好きです。超大好きです。だから付き合ってください」

「っ…そっすか…」

「そういう先輩こそどうなんですか…」

「いや…好きですけど?」

「むんっ…」


 お互い顔が真っ赤になって目を逸らす。

 あぁぁあ気まずい!! なんであんな質問したんだ俺!! いや確認のためなんだろうけどさ! そんな確認しなくてもよくね!?


「じゃあ付き合いましょうよ…」

「……おう…付き合お…っか」


 この20分の間で俺も覚悟は決めた。

 俺は、千崎と付き合いたい。


「マジで言ってます? え、いいんですか? 本当に良いんですか? 私我慢しませんよ? 良いんですね?」

「お…おう…」

「じゃあ先輩、キスしましょうか」


 俺に接近してきてそれを強要しようとする千崎を抑える。


「段階が早すぎる!! まずはお互い下の名前で呼び合うところとかじゃねぇの!?」


 多分…うん多分そうだ。付き合った事がない上に陰属性の持ち主だからあんま詳しいことは知らんけど。


「そ、そっすね。失念してました。蓮介さん」

「っ…」


 普段先輩としか呼ばれてなかったから、この時の破壊力がエゲツない。そして千崎が言った以上、俺も言うのが筋だ。


「なんでしょう…小春さん…」


 千崎…ではなく小春の顔がますます赤くなり、俺から目を逸らした。


「……これヤバイっすね……」

「やべぇな」

「……あぁもうっ…いつもの調子が出ないぃ…」


 さっきから小春はいつもの言葉のトゲが全くと言って良いほど出てこない。

 それが面白くて、ちょっとからかってみたい悪戯心が出て来た。


「ひゃうっ!」


 ほぼ無意識に小春の頬に触れる。すべすべな肌はとても赤くて熱かった。


「ぁ…の…蓮介さん…」


 ダメだと分かっていても、抑えきれない。ゆっくりと頬を撫でる俺の手を、小春が握る。


「……えへへっ…夢ですかね…これ…」

「夢じゃない」


 自分の頬を抓ると言う原始的なことをやってみるが、ちゃんと痛いし、体も命令通り動く。

 間違いなく夢じゃない。


「ってか…テスト勉強どころじゃなくなったっすね…」

「……そうだな…」


 こんな心臓破裂寸前状態で勉強に集中しろなんざかなり無理な話だった。でも今日くらい、今日くらいは良いと、自分に言い聞かせた。

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