Zeno X warsーゼノ エクス ウォーズー

西 悠斗

00 零一始まり

「これで終わりだ」


 眼鏡をかけた青髪の青年は胸の前で交差させていた双剣を対峙する銀髪の少年へ向け振るった。


「奥義•白虎滅双氷牙びゃっこめっそうひょうが


 双剣から放たれた闘気は二頭の白虎となり銀髪の少年へ襲いかかる。体勢を低くした少年はそのまま躊躇することなく白虎へ向け突進する。白虎は鋭い牙を剥き出しにし覆い被さるように少年を仕留めにかかった。


「そこだ!」


 身体を捻り双牙を避けた少年は戻る力を手にした巨大な剣に乗せ二頭の白虎を一撃で斬り裂きそのまま凄まじいスピードで青髪の青年の背後をとると首筋に剣を突きつけた。


「そこまでだ。勝者ユート•エスペラント」


 試合を見ていたヴェグナスは判定を下すと青髪の青年は双剣を激しく地面に叩きつけた。 


「スノーさんありがとうございました」


 銀色の髪の少年は剣を下げスノーに礼を言った。だがスノーは見向きもせず小さく震えながら部屋を出ていった。


「ヴェグナス総司令官、俺はスノーさんの気に触ることでもしたんでしょうか?」


「お前が気にすることではないユート」


 地面に落ちた双剣を拾い上げたヴェグナスは使い込まれ汚れた持ち手をじっくりと見た。


「この剣はなスノーが第一師団の師団長になったときに祝いで俺が送ったんだ。こっちの長い方が絶氷で短いこっちが霊氷、氷の魔力を宿した魔法剣だ」


 魔法剣はその名の通り剣自体に魔力を封じ込めた武器であり、魔法が使えない剣士が使うことによりその効果を発揮する。また魔法を使える剣士が使えばその効果は倍増する。


「スノーは人一倍努力し最年少でこの聖騎士団ホーリークロスナイツ最強の第1師団の師団長になった。その努力は他人には計り知れないものだろう。そんな男が歳下の、しかも入団前のやつに負けてみろ、いじけたくもなるだろうよ。よく言えばプライド、悪く言えば嫉妬ってやつだ。ほらお前ももういけ、朝の訓練に遅れるぞ」


「はい。ではヴェグナス総司令官失礼します」



 時は創世歴1998年。地球を統治するのはかつて世界を救った英雄の血を継ぎし王が治める国々であった。記述によれば今から約2000年前、地球は未曾有の魔物モンスターの侵攻を受け壊滅しかけたとある。魔物モンスターは通常単独行動をとりある程度の戦いの嗜みがあればそれほどの脅威にはならない。

 だがこの時魔物モンスターを統率し操る存在がいたのだ。それは魔王と呼ばれ、凄まじい魔力、そして無限に魔物モンスターを生み出した一瞬にして地球を荒廃させ、人々を死の淵に追いやった。自然は枯れ、大地はひび割れ、水は乾ききった。そして何より人々は絶望して立ち向かう気力さえ失っていた。

 しかし人類の大半が死に絶えもはやなんの希望もないと思われたその時、空から6本の光が地上に向かって降り注いだ。光は荒れ狂いながら暴れる魔物モンスターを瞬時に滅すると少しずつ人の形をとり始めた。そして光から生まれた6人の戦士達はそれぞれが手にした剣で魔物モンスターの殲滅を始めた。その様はまるで赤子の手を捻るかのようにいとも簡単であった。魔王が新たな魔物モンスターを生み出すのが間に合わないほどであったのだ。そしてその時は来た、戦士の1人アルザーは手にした神聖剣レクスキャリバーで魔王を討ち滅ぼしたのだ。


 遂に訪れた平和。諸悪の根源は絶たれたのだ。しかし地球はもはやどうにもならないほど破壊され生物が生きていけるような環境ではなかった。そして何より人々に生きていく気力など残されていなかった。

 6人の戦士達は互いに目配せすると向かい合いサークルを形成した。それぞれが手にした剣を突き上げると空に向かって6本の光が立ち上がった。光は空で集まると四方八方、地球上へ飛散した。すると枯れていた自然が息を吹き返し、ひび割れていた大地は潤い、乾ききっていた海に生命の水が戻った。そして不思議なことに人々の心に生きていくという強い意志が生まれたのだ。

 人々は6人の戦士を神の使いと崇めようとしたが自分達はそのような存在ではないと否定して人々の前から去ろうとした。だが人々はそれを引き止めこれからの自分達を導いていく王になってほしいと強く懇願した。あまりにも強いその願いに折れた戦士達は人々の要望を受け入れたのだ。

 戦士達は生き残った人々を引き連れ各地へ分かれていった。そしてこの年を創世歴元年とし、人類は新たな歴史を刻み始めたのだった。

 

 つまり現在の六国の王は6人の戦士の末裔であり、彼らが振るい世界を救った剣は六創剣ゼクスソードと呼ばれ各国の安置されている。そして各国の詳細はこうである。

 

 まずは北大陸を治めるレンフ氷国。建国者はジヴァ•レンフ、六創剣ゼクスソードは氷神剣アルマス。一年中雪に包まれた極寒の国である。


 次に南大陸を統治するラグニ炎国。建国者はフリード•ラグニ、六創剣ゼクスソードは炎神剣レーヴェルディ。大陸中央にある巨大な活火山により一年を通し暑い猛暑の国である。


 ダライヤ大国。中央大陸を統治するという独特の文化をもつ国である。建国者はガマート•ルケタ•ダライヤ六創剣ゼクスソードは妖神刀ラムマサ。


 そして巨大大陸である東大陸を領地とするアレンス聖国。建国者は魔王を討ち滅ぼしたアルザー•アレンス、六創剣ゼクスソードは神聖剣レクスキャリバー。


 その東大陸の南3分の1を統治するのがトヴァル光国である。建国者はリュー•トヴァル、六創剣ゼクスソードは神光剣クレスソレス。


 そして最後、東大陸と同じ規模を誇る西大陸を統治するゼムルス帝国。建国者はモドレッダ•ゼムルス、六創剣ゼクスソードは神魔剣ダレンスレイヴァ。


 創世歴が始まりこの六国は協力しあい良い関係のまま2000年を迎えようとしていた。しかし昨年、ゼムルス帝国が世界を掌握せんと乗り出したのだ。のちにゼムルスの反乱と呼ばれるこの大戦に時の帝王ゼムナードはあろうことかかつて地球を救った六創剣ゼクスソードの1本、神魔剣ダレンスレイヴァを手に最強と名高いダークカイゼリッターを引き連れ戦場に降臨したのだ。

 この事態にアレンス聖国はダークカイゼリッターと同じく最強と名高い自国の聖騎士団ホーリークロスナイツを中心とし、他の四国の騎士団との連合軍を形成し対抗した。序盤は均衡状態が続いていたがダークカイゼリッターの兵数は連合軍を上回り、そこに神魔剣ダレンスレイヴァの力が重なり連合軍は徐々に押され始めた。ほどなくして連合軍のほぼ全ての部隊は壊滅、連合軍は帝国に

 敗れてしまった。誰もが諦めかけたその時、帝国の偽りの情報により本戦場から遠ざけられていた7人の騎士が戻ってきた。帝国の罠により傷ついたその身体を奮い立たせ7人は押し寄せる帝国の大軍へと向かっていったのだった。



「今日の訓練もきつかったな」


 黒髪の青年は長い髪を拭きあげながらそう言った。


「うん。でもこれくらいじゃないとなんか物足りないかな」


 ドライヤーで乾いた銀色の髪を手櫛で髪を解いたユートは左耳にピアスをつける。


「相変わらず訓練大好きな奴だな。まっ、そうじゃないとあの天下の堅物スノーに目をつけられたりしないか」


「アルそんな言い方ないだろ? スノーさんも俺と同じで純粋に強くなりたいだけなんだよ」


「けどあれじゃな、きっと女にもモテないぜ」


 髪を拭き終わったアルクスがドライヤーに手をかけようとした時シャワー室にスノーが入ってきた。


「すみませんね、女性にモテなくて」


 アルクスに視線を送ることなく眼鏡を外し汗で濡れた訓練着を脱いだ。


「スノー冗談だよ冗談」


「冗談じゃなくて結構。僕はあなたみたいに女性にモテるだの髪型がどうだの考えている余裕がないのでね」


 結局一瞥もくれることなくスノーはそのままシャワー室に入っていった。


「ほら、やっぱり天下の堅物じゃねぇか」


「もうそのくらいにしときなよ」


 アルクスはそれ以上何も言わず長い黒髪を乾かし始めた。


「アル、先に戻るよ」


 シャワー室を出てエレベーターで3階へと上がり自室に戻った。ベッドと小さな机と椅子、それにコーヒーと大量の角糖。クローゼットには皺ひとつない純白の騎士服が3着掛けられている。必要最低限のものしか置かれていないためやや殺風景に見えるがユートにはこれが落ち着く。

 彼の名はユート•エスペラント。アレンス聖国が誇る聖騎士団ホーリークロスナイツに所属する剣士である。騎士団史上最も若い16歳で入団し、わずか半年で第1師団へ昇格した。碧い瞳とシルバーグレーの髪、まるで少女のような整った顔立ちをしている。

 聖騎士団ホーリークロスナイツは大きく分けて四師団に分かれており、まず入団した新人騎士が所属する第4師団、そしてある程度の実力をつけた騎士が所属する第3師団。この時点で並大抵の剣士を超えた強さをもつことになる。続いて第2師団は第3師団中から選ばれたエリートが所属する師団となる。ここまでくれば世界でも指折りの剣士に名を連ねたといっても過言ではない。最後の第1師団。剣才、状況判断、戦場経験と分析能力、いくつも条件をクリアした騎士が所属する最強の師団。所属する騎士は剣聖ホーリーソードと呼ばれ至高の領域に到達した選ばれし剣士となる。その強さはたった1人で数百体の魔物モンスターを壊滅させ、第2師団の騎士が数人でなんとか抗えるほどである。通常入団した騎士は第4師団から第3、第2と順序を踏んでいくがユートは第4師団から飛級で第1師団に抜擢されたのだ。 


「ユート、ルルだけど入っていい?」


 返事をする前にドアが開きウィスタリアの髪をした少女が入ってきた。


「本部からの任務の指令がでた。すぐいける?」


 少女はあまり抑揚のない声で伝えると白いロングメイド服のポケットから1枚の紙を出した。


「ああ。いつでもいける」


 指令表を確認したユートはクローゼットから純白の騎士服を取り出すと腕を通した。そして机の上にある双剣が交差した金色のバッジをつける、第1師団の、剣聖ホーリーソードの証だ。


「父さんいってくるよ」


 巨大な剣を背負うと少女と共に自室を出る。そのまま3階エントランスからエレベーターに乗り込んだ。


「場所は西にある銀鉱山の麓にある村シルバリア。野盗らしき10人の賊が人質を取り村長宅に立篭ってるみたい。それと…理由はわからないんだけど、ユート•エスペラントを呼んでこいって要求してきてるって」


 思い当たる節はない、が剣士として戦う以上恨みを買うこともあることは承知の上だがいくら考えてもそんな記憶はない。そうしているうちにエレベーターが1階エントランスに到着すると宿舎を飛び出し空が見える場所に出た。


「ルルいける?」


「うん。任せて」


 ルルは目を閉じ呪文の詠唱を始めた。


「我が身体よ、空を駆け巡る鳥となり我が今強く思う場所へ運びたまえ…瞬間移動呪文バドルーク」


 2人は魔法陣に包まれ一瞬にしてシルバリアの前へ移動した。瞬間移動呪文は詠唱者が1番強く思い描いた場所へ一瞬で移動する魔法である。移動するためには一度その場所に訪れたことがあることが条件で他国間でも使用は禁止されている。


「久しぶりだね。戦争が終わって以来かな」


「ああ。でも明らかに様子がおかしい、急いだほうがいいな」


 銀鉱の村シルバリアはその名の通り良質なシルバーの産地として世界的に有名な村でありここのシルバーから多くの武器が生まれる。

 シルバリアの人々は皆明るく村の中はいつも活気に溢れて笑い声が絶えない。だが2人が前にしたシルバリアはとても同じ村とは思えないほど静まり返っている。中に入ると銀を採掘するための器具や台車が激しく散乱している。


「村の人達はみんな捕まってるのかな?」


「いや…微かだけど人の気配を感じる。こっちだ」


 村の東側に一軒だけ頑丈に施錠された家があった。外から見る限り電気はついてない。ルルは炎の魔法で鍵を焼き切り2人はゆっくり中に入った。


「あ、あなた方は…」


 予想は的中、村中の人々が捕らえられていた。全員腕を後ろで括られている。


「遅くなりました。俺はホーリークロスナイツ第1師団に所属するユート•エスペラントといいます」


「おぉ…ではあの商人はしっかり伝えてくれたんだな」


 ユートとルルは手分けして全員の縄を解いた。その後村長はゆっくり騒動について話し始めた。


「現在村長さんの自宅に立篭ってて、奥さんと娘さんが人質になってるんですね」


「2日前だったか…突然武装した10人の賊が妻と娘を人質にして私の家に立篭もったのです」


「そして用件はユート•エスペラントを連れてこいと…」


「そうなんです。最初はシルバーが目当てかとおもったんだがいくら聞いてもそれしか言わなくて」


 あくまで狙いは自分であると確信したと同時に申し訳ない気持ちでいっぱいになった。


「村長さんすみません俺のせいで…。奥さんと娘さんが俺が絶対に助けます。だから皆さんはここで待っていてください。いこうルル」


 家を出たユートは村の最奥にある村長の家に向かって走る。


「ユート大丈夫?」


 横を走りながらルルはユートの顔を覗き込んだ。


「大丈夫だよ。そんなことでブレたりしない」


 村長の家の前に着いた2人。ユートは力強く扉を開いた。


「よぉ。戦争を終わらせた英雄様にしちゃ遅いんじゃねぇのか?」


 スキンヘッドの取り巻き10人の中央にいモヒカン頭の男は不気味な笑みを浮かべ、蔑むような目で2人を見た。そしてその横に村長の妻と娘が手足を縛られ口を塞がれた状態で捕らえられている。


「誰だお前は? なんでこんなことをする!?」


「誰だと? 忘れたとは言わせないぜ、俺様は元ゼムルス帝国ダークカイゼリッター第3部隊隊長ゴダー•カマベル」


 立ち上がったゴダーは自らの剣を引き抜き切先を向けた。


「ダークカイゼリッター…戦争の残党か」


「そう、お前のせいで夢も希望もなくなってしまった可哀想な男だ」


「なに?」


「俺様はあの戦争で名声を上げ第1部隊、いや総司令官へと成り上がるつもりだった。けどよお前が戦争を終わらせちまったからそのチャンスだけでなく、ダークカイゼリッターすらなくなっちまった。あの日から俺様はお前に復讐するためだけに生きてきたんだ」


「俺を恨むことは構わない。だけどあの戦争でどれだけの犠牲が出たと思ってるんだ! 大体戦争は自分の名声を上げるためにあるんじゃない、お前も騎士ならそれくらいわかるだろ!」


 珍しく声を荒げるユートは今にも剣に手をかける。


「だったら聞くがお前はあの戦争で何人殺した? そのせいで何人が露頭に迷うことになった? 何人

 が家族を失った? えぇ? 答えられるのかよ」


「それは…」


 突然の切り返しに言葉が詰まってしまった。あまりにも正当すぎる事実に返す言葉を失ってしまったのだ。


「ユートは守ってくれたよ。少なくても1人は確実に。だからね、そんな悪者さっさとやっつけちゃって」


 相変わらずの無表情と抑揚のない声でルルは言った。


「ありがとうルル…。わかった!」


「ガキが、調子に乗るんじゃねぇよ」


 ジョーは村長の妻と娘を掴むと背後の窓ガラスを破り裏の平地へと飛び出した。次々と飛び出す取り巻き達に続きユートとルルも後を追う。


「こいつらを返して欲しければ俺様を倒して……なに!?」


「なにか言ったか?」


 村長の妻と娘はいつの間にかゴダーの手から離れルルの前にいたのだ。


「バカな…。お、お前らあいつを殺せ!」


 ゴダーの叫びに呼応し取り巻き達は剣を手に突撃してくる。だがユートは剣に手をかけることすらせず微動だにしない。先頭で突っ込んできた取り巻きの振る剣が触れる瞬間ユートは姿を消す。そのまま背後に回ると後ろから来ていた3人を回し蹴りで吹き飛ばした。そして先頭の取り巻きの腹部に強烈な打撃を放つ。これで4人。残りの6人の顎、腹部、脇腹、首筋、頭部、背部それぞれに目に止まらぬ速さで蹴りと打撃を放ち一瞬で倒したのだ。


「き、消えた…」


 村人と共に駆けつけていた村長は言った。


「あれはライトニング。消えてはない、ただ速いだけ」


 簡単に説明するルルだがそれを理解することは簡単ではない。どう説明されても消えているようにしか見えないからだ。


「さぁこい、あとはお前だけだ」


「さすがは銀色の死神ゼルヴェルスレイヤー」ってことか。だがな強くなったのはお前だけじゃない。お前に負けたあの日から、貴様を殺すことだけを考えて生きてきた。そして生み出したこの技で死ねえぇぇぇ! 死影烈殺剣しえいれっさつけん!」


 死影烈殺剣。自身と同等の強さをもつ影の分身を生み出し同時に攻撃を仕掛けるゴダーの最強剣技。


天上星霜流月光剣てんじょうせいそうりゅうげっこうけん繊月せんげつ


 ユートが引き抜いたのは巨大な大剣。迫るゴダーと分身にその紅き刀身を向けた。そして凄まじい速さで下段から上段へその大剣を振り上げ3体の分身ごとゴダーの胸部を斬り裂いた。


「し、死影烈殺剣が…」


血を吐きながら宙を舞ったゴダーは激しく地に落ちた。


「急所は外した。死にたくなかったらさっさとこの村から消えろ。そして二度と現れるな」


取り巻き達は血塗れのゴダーを担ぎ一目散に去っていった。その後ろ姿を見て村人達は歓喜の声を上げた。


「やったねユート」


「ああ。ルルありがとう。ルルのおかげで自分を見失わずにすんだよ」


「まったく。私がいなかったらどうなっていたことか」


後ろから村長と妻、そして娘がやってきて深く頭を下げた。


「本当にありがとうございました」


「いえ、こうなる原因は俺にあったんですから。こっちこそすみませんでした」


すると娘がユートの手を握りその碧い瞳を覗き込んだ。


「綺麗な瞳。あなたは意味もなく人を殺すような人じゃない。私みたいな人間がいうのもあれなんですが自信を持ってくださいね」


「ちょっといつまで握ってるの?」


膨れっ面のルルはユートから娘の手を無理やり離した。そんなルルに村人達は笑う。


「ところでその剣、四星剣メテオグラムではないですか?」


ユートの剣を指差した村長は何度もまじまじと見た。


「はい。元々は父の剣でしたが今は俺が使ってます」


四星剣メテオグラム。隕石から精製されるメテオライト鉱石から造られた長さ180センチにも及ぶ両刃の大剣である。剣としては珍しい赤黒色をしているのはメテオライト鉱石を100%使用している証である。この鉱石はその性質上扱いがとても難しいため他の鉱石と組み合わせて使用するのだが、メテオグラムは腕利きの職人が何日も費やしメテオライト鉱石だけから造り上げた。そのため剣としての性能は凄まじく一度振れば全てを斬り裂き、羽のように軽さとダイヤにも劣らない強度を誇るまさに至高の一振りなのである。


「四星剣メテオグラムと銀色の死神ゼルヴェルスレイヤーの異名、やっぱりあなたはゼムルスの反乱に終止符を打った英雄の1人ユート•エスペラントだったんですね」


「そんなたいしことじゃないです。それに戦争を終わらせたのは俺だけの力じゃないから」


「この話はこれで終わりよ。村長、ここに指令完了のサイン書いて」


話を遮るかのように間に割って入ったルルは無理やり村長にペンを持たせサインを書かせた。


「帰るよユート」


「あ…ああ」


村の人々に見送られながら外に出るとまるで焦るように詠唱を始めると瞬く間に宿舎前に戻ってきた。


「ルル?」


「私、戦争の話は二度と聞きたくないの。それと戦争のことを話すユートも


「ルル…」


「先に戻ってて。私、報告書出してから戻るから」


一度も振り返らずにいってしまったルルが見えなくなってからユートもゆっくり自室へと帰るのだった。








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