第50話 思惑通り
「ふふっ、ようやく来ましたわね鈴木。初日から遅刻なんて普通とは違う行動じゃなくて?」
「あっ!金剛さん!」
ザザッ!!
「チッ!」
金剛さんの静かな声を聞いて、周囲を囲んでいた女生徒達は一斉に話すのを辞め、地面に膝をついた。
でも、誰か舌打ちをしていた気がする。
「え?え?え?」
「ふふっ、リアクションは普通そのものね。まずは校長に会ってもらいますわ。ついて来なさい。」
「は、はい!」
あたふたしていた俺を見て金剛さんが笑う。
何がなんだかわからないが、とりあえず金剛さんについていくことにした。
カッ!カッ!カッ!
どんな床でも音が鳴る機能付きハイヒールが、学校の廊下を鳴らす。
授業中の教室を通り過ぎる度、生徒や教師までもが机からおりて跪く。
大名行列みたいだな。
「ふふっ、まだ遊び足りないのね。」
皆が跪く中、稀に机に座ったままの生徒がいた。
たぶん、その人達のことを示唆した言葉だと俺は思う。
そういえば、金剛さんを問い詰めなくてはいけなかった。
「あの、ところで金剛さん。僕らはなぜ転校させられてるんでしょうか。」
「ふふっ。させられただなんて…自分から入学をせがんだのよ?」
「へ?そんなことした覚えがありませんよ?」
スッ
金剛さんはこの会話になることを知っていたかのように、金色の手紙を取り出した。
天界での勝負で使用された手紙をなぜ今出したんだ?
金剛さんは手紙を開けてみて、とジェスチャーする。
まさかと思いながら手紙を開くと、やはり転校するための書類が揃っていた。
しかも、4人分…
推薦状まで…内容はこうだ。
〜〜〜〜〜〜〜
私の推薦。
入学させなさい。
金剛 彩 より
〜〜〜〜〜〜〜
もっとこう…俺らの人柄とか功績とか立場に触れて書こうよ…
これで入学できるのは、金剛さんの力が大きすぎるからだろうけど…
というか、金剛さんは天界との勝負を利用して、自分の目的を果たさせたわけか。
薄々感じていたが、金剛さんは未来予知に近い。先を見通す力があるようだ。
「タックル。入るわ」
「オーケー、ボス。」
ガチャ!!
どこから金剛さんにツッコめばいいかわからず悩んでいると、いつの間にか校長室に着いていたようだ。
ドアの前で待っていた黒服の大男がドアを開ける。
「え…こ、この方が校長先生…ですか…?」
ドアの真正面に構えられた金色のデスクには、
美少女が座っていた。
艶やかなセミロングの黒髪。
その美しい髪を生え際から毛先まで、視線が滑るように自然と向かう。
毛先まで行った視線は、彼女の唇に気づき釘付けになる。
見ているだけで心臓の鼓動が速くなり、凝視すべきではない部位と理解しているのに視線が離せない。
触れたいと男の欲望が叫んでいる。
「初の通学お疲れ様。次からは遅刻しないように気をつけましょうね!」
釘付けになっていた薄紅色の唇が突然動き、
俺は驚いて反射的に彼女の目を見つめる。
そこには星空を凝縮したように神秘的で、慈愛に満ちた眼差しがあった。
自分の美貌に見惚れていることを把握した上で、可愛がっているような…
魅惑の優しさを感じる。
「は、はい!!も、申し訳ございません!!」
自分より圧倒的に存在が上の人間だと、本能で悟らされた。
言葉を交わすだけでも恐れ多く感じて、プレッシャーで押しつぶされそうだ。
「ところで、今日は何のご用なの?」
「校長。送った推薦状のとおり、ここにいる者達を転入させるわよ。異論はないわね?」
目の前の息を呑む美女を前に、臆することなく金剛さんが話し始めた。
だが、美女は少しつまらなそうな顔をするだけで返答はない。
「うむ。金剛お嬢様の意思を受諾いたします。」
「ん?え?誰だ…??」
「今、下から声しなかったっ??」
「ていうか、あのイス…人じゃない?」
美女の座っているイスが喋った…
いや、イスではない。
四つん這いになったオッサンだ。
その異変に驚いたリムさんがフェイズの後ろに隠れる。
「そう。では、鈴木。学校を案内しますわ。付いてらっしゃい。」
「え?え?はい!」
目的は果たしたと言わんばかりに、身を翻した金剛さんに、俺はとりあえず付いていこうとする。
「あら、待って!鈴木くん!よかったら、その役目。私にさせてくれないかな?」
ゆっくりとイス(校長)から立ち上がった美女は、俺の学校案内役をかってでた。
「いいえ、鈴木は私が推薦し、転入させたのよ。私が案内すべき。以上、お構いなく。」
「私は貴方に聞いていません。鈴木くんに聞いているんです!」
な、なんだ…?
急に俺の取り合いが始まったぞ。
校長がイスになっている時点でパニックなのに勘弁してほしい。
とりあえず、知り合いの金剛さんに案内してもらうのが安心だ。でも、男の本能が知らない美女を指名している。
「そんなの必要ないよっ!!私が学校案内するからいいっ!!」
「え!?よくわかんないけど、だったら、ウチとリムが案内するっつーの!ね、リム?」
「え!?う、うん…」
「貴方達も今日転入してきたばかりじゃないですか。案内できるはずがありません!」
「貴方達、この場は黙っていなさい。」
予想外のことを言い始める明。
状況はわからないが、それに便乗して立候補するフェイズとリム。
無論。
即座に否定を受けるが、明は止まらない。
俺の腕を掴むと校長室からグイグイと出ていくのだった。
この世で一番凡人の俺は各界の女王から求婚を迫られる!? ぱんく @punk10
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