おっきいあの子とちっちゃい私
やまめ亥留鹿
おっきいあの子とちっちゃい私
高二、春。
私は決心した。
「今年は身長を五センチは伸ばす!」
その宣言に、隣を歩く詩織が、「へー」と興味ゼロといった具合に相槌を打った。
「で、ゆーちゃん、去年もおなじこと言ってたけど、ここ一年で結局何センチ伸びたんだっけ? 一センチでも伸びたの?」
「……。……過去のことはどうでもいいんだよ、これからなんだよ、これから伸びればいいんだよ!」
「あーあー、やかましいやかましい」
詩織がわざとらしく顔をしかめ、両手で耳を押さえた。
「くそー、自分が身長高いからっていい気になりやがって」
「いい気になんてなってないよ、むしろ気分悪い」
思わず歩みを止め、詩織の制服の袖をつまんで引っ張る。
「え、なんで」
「ちっちゃい方がかわいいから」
そう言って、詩織が手を伸ばして私の頭を撫でた。
「む……」
「む……?」
ムカつくなあコイツ!
いつもいつも『ちっちゃい』だの『かわいい』だの『ちっちゃくてかわいい』だの言いやがって!
私はそれを気にしてるんだっての!
「ふんだ、どうせ詩織には私の気持ちなんてわからないよ」
「そんなことないよ、分かってくれない気持ちは分かるよ」
詩織の言葉に、一瞬考え込む。
「それはアレか、『長身の私もそれを気にしてるんだ』ってか。『私は低身長に憧れる』ってか。私もそんなこと思ってみたい!」
「ゆーちゃんはバカだなあ」
「バカじゃない!」
抗議のつもりで、横から肩で詩織にタックルをかます。
しかし、詩織は平気な顔をして、私の肩をふわりと抱いた。
「どうしてゆーちゃんは高身長に憧れてるわけ?」
「かっくいいからだよ!」
「かっくいいかな?」
詩織が自分を指差して、首を傾げた。
「うん」と返事をしかけた時、私はふと言葉に詰まった。
私は幼い頃からずっと詩織と一緒に過ごしてきたわけで、幼い頃から背の高かった詩織はずっと、私にとっての高身長の象徴だったことになる。
ということは……、
「私、詩織のことをかっくいいと思っていたようだね」
「また変なタイミングでおかしなことを言いだすね」
「つまり、私は詩織になりたかったんだ! というわけで私と交代して!」
詩織の腰に巻きつくと、詩織は呆れたように笑った。
「ゆーちゃんはバカだなあ」
「バカじゃない!」
「じゃあ早く気づいてよ」
「何に!」
「あーあー、ちっちゃいゆーちゃんは頭の中もちっちゃいままなんですねー」
「むっ……」
何か言い返そうとしたその時、頭にビリリと電気が走った。
「はっ、精神が高身長になれば背も伸びるのか!」
私のひらめきに、詩織は可笑しそうにクスクスと笑う。
「高身長な精神ってどんなよ」
「大人ってことだよ」
「その考え方がもうすでにちっちゃいよね」
「なにをー!」
まとわりつく私の背中を、詩織がなだめるようにポンポンと優しく叩く。
「ちっちゃいゆーちゃんはかわいいねえ。もうずっとちっちゃいままでいなよ」
そうやってバカにできるのも今のうちだけだからな、来年にはおっきい私になってやる!
おっきいあの子とちっちゃい私 やまめ亥留鹿 @s214qa29y
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