第8話 壊す

あの日から、どれほどの月日が流れただろう。

「市川さーん、これ手伝ってー! 」

「——はーい! 」

私はいつの間にか成人して、小さな喫茶店で働くようになった。


私の前から愛佳、理一。そして稲倉町が消え去った後、私は自衛隊に保護された。

どうやら稲倉町を濃い霧が包んで、捜索が出来なかったらしい。

保護された後、私は新聞なニュースなどで大々的に取り上げられた。

毎日の様に警察や、マスコミが押し寄せてきて、私の名前は世界に広まってしまった。

一時は自分の将来なんて考えられなくなる程大変だったけれど、今はこうして前を向いて歩いている。


胸に手を置くと、自分の鼓動が伝わってきた。それを聞いて、私は今も生きているのだと感じる。

窓越しに見える空は、昨日と同じように真っ青で、それがどうしてだか切なく思える。


私は一人ぼっちになった。心の中にぽっかりと穴が空いて、今でもそれを埋めることは出来ていない。

それでも私は前を向く。

両親、愛佳、理一、皆が私を見守ってくれているから。


——私は皆の分まで生きる。

それはあの日、私が作ってしまったツクリモノの世界を、決して無駄にはしない為に。


「・・・・・・さてと。今日も頑張りますか! 」


ぐっと背伸びをしてから、私は空に背を向けて歩き出した。

きっと今も空のどこかで皆が私を見守っていると信じて。


私は愛佳も理一も居なくなったこの世界で、ただひたすらに生きていく。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

愛と理なき世界 桜部遥 @ksnami

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ