舌打ちコンビニ

昆布 海胆

舌打ちコンビニ

「いらっしゃいませ~」


夜のコンビニは良い。

俺と店員の二人だけの空間、だが相手は仕事で俺は自由。

この圧倒的立場の差、下民を見下す貴族の様に上下関係がハッキリしているのだ。

お客様は神様、だが他に客が居ると俺以外も神と言う事になってしまう。

神は俺一人で十分なのだ。


「フンフフフ~ン~♪」


適当に今日の無い雑誌を手に取ってパラパラと見ていく・・・

あぁ、この自由この至福この快感!

俺は音で店員の現在の位置を把握して雑誌を棚に戻す。


(レジから出たな、今だ!)


近くに在るボールペンを適当に手に取って俺はレジの方へ向かう。

それに気づいた店員が慌ててレジに舞い戻ってきた。

そして・・・


俺はレジ前をスルーして近くの棚のガムを選んでいる振りをする・・・

会計だと思って慌てて戻った店員を内心ほくそ笑みながら・・・

店員がレジの前で暫く俺を凝視しながら待機しているのを確認して・・・

俺は弁当のコーナーへ移動した。


(くくくっ店員がレジから離れたら今度はボールペンを棚に戻す為にレジ前を通過してやるぜ)


そう考えていた時であった。


「チッ」


それは僅かに聞こえた。

間違いない、舌打ちだ。

あの店員、神である俺に舌打ちしやがったのだ!

あ・・・あの野郎・・・許さん!


俺は上の棚のおにぎりを一つ手に取ってレジの方へ向かう。

それに気づいた店員がレジの前でにこやかにしていた。

だから俺はその前をスルーしてボールペンを戻しに行った・・・


「チッ」


今度は確実に聞こえた。

やっぱりあの店員、にこやかな顔しながら俺の視界から外れた瞬間舌打ちしやがったのだ。

俺の怒りは間違い掻く有頂天になった。

だから俺はボールペンを戻してレジ前で待機している店員の方へ近付いて・・・


「チッ」


っと舌打ちだけして奥のドリンクコーナーへ向かう。

動きだけなら、おにぎりを買おうとしたがドリンクを買い忘れたので買いに向かった様にしか見えない筈。

そんな俺の背後でやはり聞こえた。


「チッ」


こいつ・・・

俺の寿命がストレスでマッハにする気か・・・

良いだろう、マジでかなぐり捨てンぞごるぁ!


「チッ!」


俺は伊左衛門の御ティーを手にしてレジに牛歩でブーストした。

勿論、舌打ちは忘れずに稀に良くある感じでスムージーにだ!


「チッ」


目が合った店員が俺に向かって堂々と舌打ちしてきやがった。

あの店員のエネルギー量がオーラとして見えそうになる気がした。

だが俺も負けてはいない!

既に怒りは有頂天を通り越して絶頂天である!


「チッ!」


俺は舌打ちと共にレジ前におにぎりと御ティーを置いた!


「チッ」


店員も負けじと舌打ちしながらバーコードを読み取る・・・


「チッ!」

「チッ」

「チッ!」

「チッ」

「チッ!」

「チッ」

「チッ!」

「チッ」

「チッ!」

「チッ」

「チッ!」

「チッ」

「チッ!」

「チッ」

「チッ!」

「チッ」

「チッ!」

「チッ」


交互に交わされる舌打ち、顔の動きでおにぎりを温めるのかレンジの方を刺した店員。

それに舌打ちで顔を横に振って拒否る俺。

レジ袋をチラ見せして要るのか舌打ちで聞かれたから、顔を立てに振って舌打ちで返す俺。

舌打ちしながら出した金を舌打ちしながら受け取る店員。

そして、会計も終わり商品の入った袋を手にした俺は店員と目を合わしながら真正面から・・・


「チッ!」

「チッ」

「チッ!」

「チッ」

「チッ!」

「チッ」

「チッ!」

「チッ」

「チッ!」

「チッ」

「チッ!」

「チッ」


そのまま舌打ちをしながら自動ドアへ・・・

そして、店から出る瞬間・・・


「ありがとうございまチッた」


最後のは確定的に明らかなワザとである。

そんな俺たちの関係は終わりだと言わんばかりに自動ドアは閉まる・・・


こうして俺と彼の戦いは終わった。

平民でありながら貴族の俺に立てついた勇敢なあの店員の事は忘れる事は無いだろう。

だから俺は店から離れながら彼を称えて最後の称賛を送る・・・


「チッ!」


いい勝負だったぜ、兄ちゃん・・・




「んだこら?お前俺に今舌打ちしたよな?アァン?!」


俺の前に突然現れた不良。

そう、店を出た時点で時既に時間切れなのだ。

そのまま俺の顔面に放たれた拳が俺の最後に見たモノであった・・・


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