Bouquet
またたび
花束
特に言うことがない。
というよりも、言葉にする必要がない。
という方が近いかもしれない。
「どういうことかって?」
僕の隣でアイスを食べていたおそらくここの出身ではないとある国の人。奇跡的に言語に関しては彼が優れていたおかげで僕も気を使う必要はなかった。しかし、僕の一種の思考に関しては、国籍関係なく、人種関係なく、単純に他人には説明なしには伝わらないものなので、彼にも説明しなければならなかった。
「言葉というものは口にしなきゃ伝わらないのは確かなんだけど、言葉を使わずにしか伝えらない想いもあるということさ。例えば感動した映画の余韻……いざ言葉にしてしまえばこの描写が上手い、彼女の行動の理由が心に刺さる、そんな論理的な、具体的な、ものになってしまうんだ。でも、ただ泣いて笑って、そんな時間を相手と共有すれば、十分映画の素晴らしさは伝わるし、それ以上のものが伝わるはずなのさ。これを人々は想いと呼ぶのだと僕は思っている。特に僕はかなりお喋りだからね、度々語らない良さというものを身に染みて後悔しているよ」
……確かに君はお喋りだな。
そう言って彼は興味を失ったのか、アイスを食べ終わったことをきっかけにその場を去った。
なんだそんなことか、と思ったに違いない。言葉にしない良さがある、その考えは今の時代もはや常識になっているものだ。だから大した驚きもしない。
あぁあ……だから言葉にしなければ良かったのに。言葉にしてしまったから僕の想いまでは汲み取られなかった。
「でも仕方ないことなのかもしれない」
さっき言ったように、他人に自分の考えを伝えるには説明するしかないからだ。
でも説明すると想いというのは伝わらない。
結局人というのは長い時間を共にして、もしくは短くても濃い時間を共に過ごして、気持ちを風に乗せて伝えることができる人間にしか、本当の想いを分かってもらえないのかもしれない。
「ふふ、ならば……詩人というのはどういうものなんだろうか」
言葉を生業とする僕らは何を伝えているのだろう。何が伝わっているのだろう。分からない。やはり少々の言の葉くらいは必要なのだろうか。
そんなことを考えていると、気づけば僕は目的地に着いていた。
「まあとりあえず」
必要な繋がりはありがとうとごめんねと、好きだけ。あとは気持ちを風に乗せて。
「花束を添えたら最高だ……。また会おう、レディ……」
風に花が揺れて想いが伝わればいい。
Bouquet またたび @Ryuto52
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