「スピードポーション」「気まぐれな妖精」「釣り具」

わたし、気まぐれな妖精。

今はとある店の倉庫に住んでるの。

米俵15俵ぶんぐらいの広さを一人で使えるのよ。スゴいでしょ。


もちろん、ただで住まわせてもらってるわけじゃないわ。店主さんがお酒なんかを作るときには、このわたしの知識と技術を貸してあげるの。

わたしたちの一族は、そういうことに関して特別な才能を持ってるの。だから、店主さんたちは血眼になってわたしたちを探し回ったり、時には大金を出して取引したりするの。スゴいでしょ。


ある日、店主さんは新しく特別なお酒を仕込むことにしたらしくて、釣り具をたくさん仕入れてきたの。釣り竿が50本も並んでいるのはなかなか壮観だったし、それだけのスペースを1人で使ってると思うと気分がよかったわ。

それで、ちょっとだけ手伝ってあげることにしたの。普段はやらないんだけどね。わたしにかかれば、釣りなんて朝飯前の入れ食いのウハウハよ。スゴいでしょ。


そしたらね、店主さん、材料がたくさんあって大変だからって、仲間を連れてきてくれたの。なんかみんなやる気に溢れてて、確かにこれなら捗りそうだなって思ったわ。

それに、なんだか不思議なお薬をくれたの。

それを飲むとなんだか私までやる気がみなぎってきて、一瞬で仕事を終わらせちゃったの。比喩でもなんでもないわ、ほんとに全然時間が経ってなかったのよ。スゴいでしょ。


でもね、店主さんは肝心なことを忘れてた。仲間が増えたのにスペースは増えなかった。わたしたちに与えられたスペースは前と同じ、米俵15俵ぶんぐらい。

自分の価値は釣り竿5本ぶんなのか、なんて考えると悲しくなってきちゃったの。


だから、わたしは逃げ出すことにした。

確かに店主さんにはそこそこ良くしてもらったけど、でもずっといるって約束したわけでもないし。


それにほら、わたしって気まぐれな妖精だから。

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so2三題噺 @pocketwatch

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